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世話好き上司がお隣さん!?~おかん系部長と生活力向上レッスン~

  • 作家百瀬実吏
  • イラスト蓮水薫
  • 販売日2018/12/18
  • 販売価格400円

家事能力が低く、特に料理が苦手。元彼は家庭的な女を選んでいなくなってしまった。そのことを引きずりながら、コンビニごはんをエネルギーに光は仕事に打ち込んでいた。そんなある日、突然引っ越しの挨拶に現れたのは飯田部長。しかもお隣さん!?一瞬気まずさを感じるが、光の職場での食生活を把握していた飯田部長は自宅に招き美味しい料理をふるまってくれた。気配りを感じる食事に心を動かされ、ちゃんとしなくちゃ!と苦手な料理に果敢に挑戦する光。それから、料理を介して飯田部長と距離がどんどん近づいていく。まるごと温かく包み込んでくれる飯田部長の優しさに、光は自分の想いを自覚していくのだが──


 手首に黒のヘアゴムをつけてるような女に負けた。
 ダサくて、あか抜けなくて、だけど家庭的な。
 彼はそういう女がいいって、そんなこと私といるときは一度も言わなかったくせに、そう言って私を裏切った。
 あんな男、大したことない。そう自分に言い聞かせてきたけど、自分で思っていたよりもその傷は大きかったみたい。
 あれからもう四年が経つのに、手首にヘアゴムをつけた人を見ると、彼のことを考えてしまう。
 だから私は、そのヘアゴムをつけている相手が男性だってことにも、新しくうちの隣に越してきた人だってことにも、あろうことかそれが自分の上司だってことにも気がつくのが遅れてしまった。
「こんばんは、隣に越してきた飯田(いいだ)で……名波(ななみ)?」
「え? ……え、部長? 何してるんですか、こんなところで」
「何って、引越しの挨拶に来たんだが」
「引越しの、挨拶?」
 いつもなら宅配便以外、無視してしまうんだけど。ちょうど家を出ようとしたところで、突然の来訪者のためにドアを開けてしまった私は、引越しの挨拶に来たらしい飯田部長と鉢合わせしてしまった。手には何か、白い袋が握られている。
(引越しの挨拶、部長が、私に、えっと、どこに越してきたの、まさか──)
 隣の部屋のドアを見ると、真新しい表札に丁寧な字で「飯田」と書かれている。
「お隣さん、ですか」
「そう、みたいだな」
 気まずいのは私だけじゃないらしく、さっきから部長とはあまり視線が合わない。私も視線を落とす。最初に見た時と同じ、黒いヘアゴムが部長の手首に巻き付いていた。
(普段は、つけてなかった気がする……)
 前に一度、部長のつけている時計のことを同期の中村(なかむら)ちゃんが話していて、その時に手首を見た。だけどそこには、中村ちゃんの言う通り素敵な時計があるだけで、こんなダサいヘアゴムなんかはついていなかった。
(彼女の、とか)
 これから部長の彼女とかにも鉢合わせしてしまうんだろうか、と思うと、想像しただけでとんでもなく気まずかった。なんだか、胸の奥がチクンと痛んだような気がする。
「……雰囲気が違うんだな、私服だと」
 気まずい空気をなんとかしようとして、部長が言葉を選びに選んでそう言った。私の格好は、完全に油断しまくりの「ちょっとそこまでスタイル」だし、そもそもすっぴんだし。雰囲気が違うとかそういう話ではない気がするけど……。
「す、すっぴんだからですかね、ちょっとそこのコンビニに行くだけなんで」
「こんな時間からコンビニへ行くのか?」
「はい、夕飯を調達しに」
「……夕飯を?」
 部長の眉がひくりと動いた。怪訝そうに歪んで、それから手元の蕎麦に視線を落とし、
「名波、蕎麦は好きか」
「へ? あ、はい、好きですけど」
「ここに、引越し蕎麦がある」
 蕎麦の入った袋を差し出される。
「あ、ありがとうございます……?」
「コンビニ弁当より身体にいいはずだ」
「あー……えっと」
 これをやるから料理して食べろ、ってことだよね。
 部長の提案に、私は自分の部屋のキッチンを思い浮かべる。蕎麦なんて調理したことないけど、汁の材料ってなんだろう。醤油は……あった気がするけど、ここに越してきた時に買ったものだから、多分賞味期限が限界突破してる。
 私が反応に困っているのを見た部長に、
「料理は苦手か?」
 と聞かれる。
「苦手というか……最近はしてないですね、一人分作るのって結局お惣菜を買ったほうが安いし」
 それに、誰にも喜んでもらえない料理って、なんだか虚しい気がする。誰かのためになんて、作ったこと、ないけど。
「いつもコンビニなのか?」
「まあ、そうですね。帰りが遅いとスーパーもお弁当屋さんも開いてなくて」
「名波、お昼もコンビニで済ませてないか?」
「えっ、なんで知ってるんですか?」
「……名波だけだからな、毎日コンビニの弁当か、カップ麺を食べているのは」
「あ、ははは……」
 悪目立ちしてしまっていた、ってことか。私のことを見てくれてるのかと思って、ちょっとドキッとしてしまった。
「えっと……これ、ありがたくいただきます」
「名波」
「は、はいっ」
 差し出された袋を受け取ろうと伸ばした手は、部長にしっかりと掴まれた。部長の手首で、ヘアゴムが揺れる。
「ちょっと来い」
「えっ?」

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