
イラストルシヴィオ
陶器メーカーで働くみつきは恋よりも仕事に夢中な27歳。ある日、友人宅のたこ焼きパーティーで涼太という男性出会った。あんまりな彼の態度にみつきは激怒。第一印象は最悪。だが後日、彼がみつきの大好きなインテリアショップの社長だと判明。しかも取引先としてみつきが担当することに。そんな中、友人から長期間留守にするので、住み込みでペットの世話してほしいとで頼まれてしまう。当日、なぜか友人宅で涼太と再会するみつき。なんと涼太も留守を頼まれていて……険悪な二人の奇妙な共同生活が始まった。絶対に関わりたくない!と避けるようにしていたみつきだったが、徐々に涼太の優しさに触れ、心に変化が……?
1 最悪な出会い
『タコパやらない?』
お昼休みに後輩たちとお弁当を食べていると親友でイラストレーターの結城(ゆうき)朱理(あかり)からたこ焼きパーティーに誘われた。
「いいね。たこ焼き食べたい」
『じゃあ~、みつきの都合のいい日をメールして』
「わかった」
電話を切ると後輩たちが「たこ焼きいいな~」と羨ましそうに私をみた。
私の名前は生方(うぶかた)みつき、二十七歳。
名古屋の郊外にある陶器メーカー「atelier R」で働いている。
私の担当は営業で個人経営の雑貨屋さんを担当してる。
atelier Rは社長の諏訪内(すわない)リカコさんが趣味で始めた陶芸が口コミで広がり、趣味が仕事になった感じだ。
今は洋風レトロな食器を中心に展開している。
今までは名古屋を中心に卸していたが、次に東京で開催する雑貨見本市にうちの会社も出店することになり、その準備で大忙し。
だけど大好きな食器に囲まれての仕事に辛いと感じたことは一度もない。
だだ、仕事大好きゆえに浮いた話は一つもない。
唯一あると言えば四年前。
大学の時から付き合っていた二つ年上の彼氏から、誕生日の日にサプライズでプロポーズをされた。
だけどちょうど仕事が楽しくなった時期でもあった。
おまけに彼は結婚したら家庭に入って欲しいと言うのだ。
彼の人柄は素敵だし、もちろん結婚するなら彼みたいな人がいいと思っていたけど、タイミングが悪く仕事と結婚どちらかを選べと言われた私は彼のプロポーズを受けず仕事を選んだ。
だが最近ふと、結婚していたらどうなっていただろうと考えるようになった。
もちろん専業主婦になるつもりはないけど、もし仕事をしていてもいいと言われたら絶対に結婚していた。
こんなことを考えてしまうのは朱理の影響かもしれない。
タコパに誘ってくれた友人の朱理は昨年、交際半年で電撃結婚した。
最初は、そんな短い期間で結婚して大丈夫なのかと心配したが、朱理は
「結婚なんていうのはタイミングだよ」
この人と結婚したいと思う時期がお互いに一緒だと気付いた時が結婚のサイン。
だから交際期間の長さで決めるもんじゃないと言われたときは目から鱗だった。
そう考えるとやっぱり私は四年前に別れた彼と結婚することはなかったのだろうと思うのだが、朱理たちの幸せ新婚ライフを見せつけられた私は焦り始めた。
仕事を続けてもいい人と結婚がしたい。
朱理たちの結婚生活を目の当たりにして私の結婚願望は膨らむばかりだった。
そして五日後。
たこ焼きパーティー略してタコパ当日。
早めに仕事を終えると会社近くの酒屋でチリ産の辛口の白ワインを買って朱理の家へと向かった。
朱理の家は私の会社から電車で20分ほどの場所にある。
新興住宅が立ち並ぶ中、昔の宿場町を連想するような古民家が何軒かあり風情がある。
その古民家の中の一軒が朱理の家なのだ。
まるで江戸時代にタイムスリップしたような気分だ。
朱理の家はその中でも小さくこぢんまりとした家で、玄関を開けると大きな土間がある。
「こんばんは~」
「ワンワン」
声をかけると朱理の旦那様の圭吾(けいご)さんとペットのハチが迎えてくれた。
「いらっしゃい。どうぞ上がって」
買ってきたワインを圭吾さんに渡すと「みつきちゃんのチョイスは抜群だからいつも楽しみなんだ」と嬉しそうに受け取るとそれをダイニングテーブルに置いた。
朱理の家は古民家といっても中は今風だ。
吹き抜けのLDKと、和室が二間あり、書斎は朱理の仕事部屋。
お風呂やトイレなどの水回りはキッチンの横に並ぶようにある。
そして二階には寝室とゲストルームがある。
でもこの家の素敵なところはインテリアだ。
朱理の旦那様は海外のアンティーク家具や小物などを扱うショップのオーナーで、この家のインテリアもアンティークで揃えられている。
もちろん、海外のものだけど古民家に合うような家具ばかりだ。
こういうのを見てしまうと、結婚っていいなと思ってしまう。
隣の芝は青いってやつなのだろうけど、目の前で幸せのオーラを振り撒かれると結婚願望メーターが振り切りそうになる。
そんな幸せな二人と一緒にタコパの準備をしている時だった。
「こんばんは~」
土間の方から男性らしい声が聞こえた。
「圭ちゃん。涼(りょう)君じゃない?」
朱理はタコを切りながら圭吾さんに言う。
涼君て誰? と思いながら土間の方に目をやると圭吾さんが親しそうに男性と話をしている。
「ねえ、だれ?」
気になった私はキャベツを切りながら朱理に尋ねる。
「あれ? 言ってなかったっけ? タコパのメンバー」
朱理はぺろっと舌を出した。
聞いてないけど……