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完璧社長の溺愛女王様に任命されました

  • 作家長曽根モヒート
  • イラスト蜂不二子
  • 販売日2019/04/02
  • 販売価格600円

仕事を完璧にこなす、やり手のアパレル会社社長の鷹東。あまりの完璧ぶりに社員からは「魔王」と呼ばれて恐れられていた。事務員の美空はそんな鷹東から突然「私の女王様になってください」と言われる。断り切れずに完璧社長の「女王様」になってしまい、非日常の主従関係が始まった。二人だけの秘密の時間を過ごしていくうちに、お互いの心の奥底にある何かに気付いていく。どんどん縮まる二人の距離。そして、ついに二人は……。

(帰りたいな)
 金色の光を放つシャンデリアと、それに反射してチカチカ光るグラスや出席者のドレスのスパンコールやビジューの反射が不快で、長谷川(はせがわ)美空(みく)は視線を落とした。
 履き慣れないネイビーのピンヒール。お店の人にオススメされるがまま購入した、指の付け根が少し見えて大人っぽいという靴は、普段スニーカーしか履かない美空の足をこれでもかと締めつけて圧迫し、小指の付け根と踵を赤く靴擦れさせている。
 悲惨な自分の足から顔を上げれば、自分より十歳以上は年上の煌びやかな男女の社交の場。聞こえてくる肩書きはどこかの社長やモデルなどで、一介の事務員である美空はどう見てもお呼びじゃない。美空は何度目ともわからないため息をついた。
(どうして行くなんて言っちゃったんだろ)
 数日前、仕事をしていると部長からお呼びがかかった。親会社の創立記念パーティーに夫婦で呼ばれているが、奥さんがインフルエンザにかかり行けなくなったために、急遽代役が必要になったらしい。
 なぜ自分が、と思いはしたけれど、週末にやることもなし、美空の勤める会社の親会社は国内でも有名な大企業グループだ。出る料理はさぞかし美味いだろうし量もあるはずだと思った。
 二十代も半ばに差しかかった最近は、周囲が結婚とお産のラッシュで、結婚式の参加や祝い金をばらまいたせいで主食がキャベツになりつつある。そんな中、部長が呟いた「無料で高級ホテルのビュッフェ食べ放題」という言葉に揺らがないわけがない。美空は二つ返事で引き受けた。
(結局、夜会服なんてドレスコードがあったから出費がかさんだし……)
 結婚式よりも露出の多いドレスの指定だったので手持ちでは使い回しが利かず、結局新しく買い直した。背中や胸元、肩が出て、胸下をきゅっと絞ったデザインが可愛いレモンイエローのドレスだ。買ってから気づいたけれど、足下にスリットがさりげなく入っていて、歩く度に足がチラチラと露出するのが落ち着かない。もちろんそれにあわせて靴も新調する羽目になり、こんな有様だ。明日からは小麦粉を練って茹でるしかない。
「長谷川さん、疲れたかい? 料理取ってきたよ」
 この会場で唯一の知り合いである部長が、貫禄ある頭部を光らせて皿を持ってきた。父親と娘くらいの年齢差のせいか、普段から穏やかで人がいいけれど、今日はやけに甲斐甲斐しい。足の苦痛で言葉少なな美空を、せっかくの休日に無理やりパーティーに参加させたから不機嫌になっていると思ったのかもしれない。
「ありがとうございます。部長はご挨拶とか大丈夫なんですか?」
 何にせよ、了承したのは自分自身だ。足のことがバレて気を遣われる前に、笑顔で差し出された皿を受け取った。
「僕が挨拶できるのは他の部署長とか社長くらいのものだからね。でもこの人の多さじゃ探すのも一苦労だよ。取引会社の人もたくさん来てるみたいだし」
 確かに、と内心頷きながら美空は皿からカナッペを口に放り込む。生ハムとチーズがよくわからない具と謎のオイルに邪魔されて、美味い不味いの判断ができない。答えが出る前に喉の奥に流れていった。料理さえ美空をのけ者扱いしている気がする。
 皿の上に乗ったお洒落ぶった料理のどれなら口に合うだろうかと選びながら、美空はふと顔を上げる。
「そういえば、部長は社長に会ったことあるんですね」
「そりゃあるよ。長谷川さんはないんだっけ? 入社式は?」
「熱で休んじゃったので行けなくて、見たこともないんです」
 今日が創立記念である親会社グループの次期跡取りが、美空の働く会社の現社長だ。
 噂でしか聞いたことがない上に、その噂がことごとく悪評なもので、美空は怖い物見たさで今日という日を密かに楽しみにしていた。
「あー、まあ、他の部署だと会議に参加したりもするらしいけどね、ウチはなあ」
 部長は言葉を濁すようにして笑った。美空はなんとなく言いたいことを察して、似たような笑みを浮かべた。
 美空が勤めているのはそこそこ有名な高級志向のファッションブランド会社だ。けれど美空は経理部の事務員だからそんな華やかさとは無縁の世界に生きている。日がな一日、あまり日の当たらない小さなデスクに座って、二、三パターンの服を着回してモグラのようにちょこちょことパソコンに数字を打ち込んでいく日々だ。
「でも長谷川さんが社長に興味あるなんて知らなかったな。やっぱり年頃だねえ」
 三十五歳という年齢ながら色めいた噂は皆無の社長は、見た目だけなら満点越えと、皆、口を揃えて言う。部長は美空の野次馬根性を別の感情だと勘違いしたようだ。美空は慌てて首を振る。
「ちっ、違いますよ。ただちょっと、ほら、噂だけ聞くから、実際どんな人なのかなって」
「噂? ……ああ、あれか」
 部長はすぐに頷いて、声を落とした。

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