夢中文庫

最後まで導いて

  • 作家乃村寧音
  • イラストリツキ
  • 販売日2017/12/22
  • 販売価格400円

凛々子はカレシとどうしてもできなくて、自分の体はおかしいのでは? と思っていた。結局別れを選ぶことに……。職場恋愛だったことから、転職して心機一転頑張ろう! 高級ハイタワーマンションのコンシェルジュになるが、なんとそこで高校時代に親しかった暁人と再会する。初恋だった相手との再会に胸が躍るが、十年ぶりの暁人は、大学時代に興した会社が成功し、今や有名IT企業の社長。とてもではないが手が届かない存在に……。だが、暁人は会えて嬉しいと言って食事に誘ってくる。そこから食事や外出をするようになり、ついには……!? だが、自分の体が不安な凛々子は素直に暁人の愛を受け入れられなくて――

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一歩、一歩、岩や地面を踏みしめ、登っていく。
 ようやく山頂にたどり着き、眼下に広がる景色をしばし眺めた。見渡す限り峰々が続いている。
 深い山中。少しガスはあったが比較的順調な、静かな山歩きだった。
 途中で鹿に三度会ったが、人には会わなかった。山の中で動物に会うとなぜか、自分も動物なんだなと思う。一対一だからだろうか。
 時計を見る。十二時半。予定通りだ。まずは山頂の神社に手を合わせる。
 その後ザックを下ろして、バーナーとコッヘルを取り出し、登ってくる途中で汲んできた水を沸かした。
(寒くなってくると温かいものが恋しくなるなぁ……)
 山での食事は、家でおにぎりなどを握ってくることもあるが、今日のように道具を持ってきて作ることもある。九月の半ばでまだまだ暑い日もあるが、二千メートル級の山ともなると山頂の気温は下界とはまったく違う。
 お湯が沸いたので薬味ネギとめんつゆを少し、それにレトルトカレーを混ぜこんで、汁が温まったところにうどんを入れてさらに煮込んだ。
(ふふ、できた。簡単カレーうどん。レトルトのカレーを奮発すると、なんとなく豪華な味になるのよね)
 カレーを入れてから煮込むのは邪道とわかっているが、うどんにしっかりカレー味がつくのでこれはこれで美味しい。山頂からの眺めを満喫しながらビールを出してひと口飲むと、わけもなく解放された気分になった。
 少し雲はあるけれど良い天気だ。人工的な音がなにひとつしない空間で、怖いくらいにきれいな景色を独り占め。登山者の多い週末ではこうはいくまい。わたしは今無職なので、今日は平日の水曜日だ。
(幸せだな……)
 ふとそう思った。それが心の底からの気持ちだったので、自分でも驚いたくらいだった。ひとりでも十分、幸せじゃないか? そう気づけたことは大きかった。
(これでよかったんだ。無理することなんか、なかった。わたしは、わたしだもの。これからも頑張ろう……)
 職場の上司と付き合って、振られて、辞職した。悲しいというよりは呆然として、しばらく何も手につかなかったけれど、やっと就職活動を開始して……。そんなある日、ふと山に行きたいと思った。
 高校で登山部に入っていた。幸い、道具なら揃っている。山ガール……と言われるとなんだか違和感はあるが、傍から見たらそうなのかもしれない。二十八才なので、そろそろ『ガール』という年齢ではなくなってきたが。
 でも、就職してからは、忙しかったこともあり、登山の回数はかなり減っていた。
(思い切って山に来てみて、よかった)
 わたしはカレーうどんとビールでひとり宴会をしながら、しみじみそう思った。
「うわ。立派ですね!」
 港区白金。言うまでもなく都内の一等地だ。そこに堂々と建っているタワーマンションが、どうやらわたしの新しい職場になるらしい。
 秋晴れ。今日は気持ちのいい風が吹いている。午前十時、通勤通学の時間が過ぎたからか、エントランス周辺はわりと静かだった。
「うちで担当している物件の中ではかなり上のランクに属するものです。なので、心して勤務していただきたく思います。渡瀬(わたせ)さんは五洋ホテルにいらした方ですから、おまかせして大丈夫かとは思いますが……」
「はい、頑張ります。きちんと務めさせていただきます」
「それなら安心ですが。マニュアルは読んでこられましたか?」
「事前に頂けたので助かりました。ひと通り頭に入れて参りました」
 担当の女性社員と共に、管理者用の入り口からマンション内に入った。バックルームに案内され、ロッカーの鍵や制服を受け取った。ホテルのときと同じ、動きやすいストレッチ素材のスーツにホッとしながら着替えた。ネイビーのセットで首元のスカーフはピンクのストライプ柄だ。
 ロッカーの鏡で全身をチェックした。
 普通体型で、丸顔、セミロングの髪は少し癖っ毛。見た目は平凡だけど、体が丈夫なことだけが取り柄だと思う。
「制服は二着支給しております。ご自宅で洗える素材になっておりますので、管理はお任せしています」
「はい。丁寧に扱います」
「よくお似合いですよ」
 それはどうかなあ、と思ったが微笑んだ。ホテル勤めで、笑顔を作ることには慣れている。
「ありがとうございます」
「では、参りましょうか。ご一緒に入っていただく上野(うえの)さんに紹介しますので」
「はい、よろしくお願いします!」
 今日は肌の調子も悪くない。しばらく休んでいたせいもあるかもしれない。
(いよいよ、新しい仕事だ。頑張ろう。以前のことは忘れて……)

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試着室で恋が始まる~カーテンの中の耽溺レッスン~

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