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恋酒に酔って俺様系敏腕社長の罠に落ちました

  • 作家乃村寧音
  • イラストワカツキ
  • 販売日2018/11/30
  • 販売価格400円

千尋は制作しているタウン誌『雪街タウン』の新企画として、倒産目前の野川酒造を立て直したという敏腕社長に取材を申し込もうと考えるが、その社長の情報は一切不明。もちろん取材はお断り。やむなく酒造巡りのバスツアーに潜入取材を試みるものの、うっかり酔い止めの薬を飲んでしまい、試飲後に倒れてしまう。目が覚めた時には一人野川酒造に残されていた。結局、一馬と名乗るイケメンスタッフに街まで送ってもらうことに……なんと彼こそが謎の敏腕社長だった。千載一遇のチャンスなのに、潜入取材の上に迷惑までかけてしまい、正体を明かすことができない千尋。だが、思いのほか一馬に気に入られたようで、また会わないかと誘われ――

★一話
「桜庭(さくらば)!」
 怒気を帯びた声。
 顔をあげると、総合商事(そうごうしようじ)総務部の若き部長、二ノ宮康介(にのみやこうすけ)と目が合った。
 クールに整った目立つ美貌が、怒りに凄味を帯びている。
 桜庭真央(まお)は一瞬で嵐の気配を察知した。
「は、は、はい! なんでしょう。部長!」
 弾かれたように立ちあがり、真央は窓際のデスクへと駆け寄った。
「おととい、緑町物産(みどりまちぶつさん)に手形を送ったのはお前か?」
 長めの前髪からのぞく切れ長の目が、まっすぐ真央を見据えている。
「そうですけど……」
 二ノ宮の眉がくい、と吊り上がった。
(うう……こ、怖い……!)
 彼が総務に来てからの二年間、何度となく見せられた表情である。
 まだ決定的なことは言われていないのに、胃のあたりが早くもキリキリ痛みはじめている。
「……何か間違いでもあったんでしょうか?」
「大ありだ。手形の金額が一桁違うと緑町から連絡があった」
「一桁って……」
「三百万が三千万」
「ええっ!」
 ざーっと、顔から血の気が引く音が聞こえた気がした。
「申し訳ありません!!」
 泣きそうになりながら頭をさげると、二ノ宮は苦虫を噛(か)み潰したような顔で立ちあがった。
「不幸中の幸いで担当事務員が大学の同期だった。多分なんとかなるだろう……ったく、換金されてたら大事だったぞ」
 二ノ宮は背もたれにかけていたジャケットをつかんだ。
「今から緑町に行く。お前も来い。十分後に玄関前集合だ」
 二ノ宮はボードのネームプレートを二人分裏がえすと、肩をいからせフロアを出て行った。
「先輩、何かありましたぁ? 王子、すごく怒ってましたねー」
 パソコンの電源を落としていると、隣席の田中康子(たなかやすこ)が、いそいそと話しかけてきた。
 一年後輩の彼女は、真央と違って明るく要領がいい。
 かろうじて敬語を使ってくれているものの、先輩としての威厳なんて、とっくの昔になくなっているのは表情の端々からはっきりわかる。
「手形の金額をね、一桁間違えて送ってたの」
「それ、大変じゃないですかぁ。でも、先輩なら、やりそうです」
 人事みたいに笑う康子に、真央はおずおずと言い返す。
「でもさ、あれ、康子ちゃんが……」
「ん? 私がどうかしましたぁ? 先輩?」
 康子の笑顔がふいに消えて、意地悪そうに唇が歪む。
「ううん、何でもないよ」
 真央は言葉を飲み込んだ。

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