夢中文庫

堕ちて幸せ!?~復讐に燃える完璧令嬢は魔王の花嫁になりました~

  • 作家臣桜
  • イラスト鈴ノ助
  • 販売日2018/12/11
  • 販売価格500円

「なぁ、俺とやらないか?」──あろう事か魔王ルーファスの第一声はそんな言葉だった。『完璧な令嬢』として育てられたライラは王子に恋をし、自分は幸せになれると信じて疑わなかった。しかし、その気高い心は身を滅ぼし、彼女は失意の底へ。そこにとどめのように魔王の生贄に選ばれたと国から知らされ、ライラは魔界へ堕とされる。しかし、待ち受けていたのは想像に反して魔王と思えないのんびりとした性格のルーファス。彼はライラに熱心に求婚し、代わりに彼女の復讐を叶えると言う。魔王と契約結婚をしたライラは、復讐をしては魔王に抱かれる生活に。復讐を果たす事でライラは幸せになるのか?それとも、魔王に愛されて幸せになるのか?

序章 魔王の生贄になった悪役令嬢
 世界が終わるのだわ。
 燃えるような夕焼けを前に、私は心の中で呟く。
 事実、私の心は終末を迎え、重く暗い絶望に支配されていた。
 もう何も縋るものはなく、あるのは鬱々とした憎しみと悲しみのみ──。
 夢も希望も持てず、涙も涸れ果てた。
 目の前には、黒い炎のようなものでできた輪。人がくぐれる程の大きさのそれは、魔王が住む異界へと通じている。
 左右にはズラリと王国の騎士が並んでいて、黄昏に白銀の鎧を反射させていた。
 剣礼──と言うのだろうか。
 剣を高く掲げ、その切っ先はトンネルを作るが如く交差されている。
 一歩ずつ、私はその剣のアーチの中を歩んでゆく。
 石畳の上に落ちた私の影は、この世への執着が具現化したかのように、長く長く伸びていた。
 ひとつ足を運ぶごとに、私の『終わり』が近づいてくる。
 絶望を享受したはずの私の心は、どこかまだ生にしがみつこうとしていた。足は一歩ずつ前に進んでいるのに、心の奥底では「行きたくない」と号泣している。
 何日も泣き続けた私の目の下にはクマがある。血の気を失った頬は少しこけ、唇だけが赤く塗られているのがどこか滑稽だ。
 最後に泣き喚いて抵抗したくても、その体力と気力がもうなかった。
 ただ傷ついた心から、血の涙がタラタラと流れ続ける。
「……許さない」
 私がこうなったのは、誰のせいでもない。
 ただのお告げ。──それも、魔王からの。
 私は魔王の花嫁──生贄として選ばれたのだ。
 家族は当たり前に嘆き悲しみ、私と交流のあった社交界のレディや紳士たちも、気の毒がってくれた。
 中でも体内の水分がなくなるのでは、と思うほど泣いてくれたのは、親友のクラリッサ。
 ──けれど私は、彼女──クラリッサを許すことができなかった。
「信じていたのに」
 私は……。私が、幸せになるはずだった。
 だというのに彼女は──。
「救国の聖女、ライラ・アシュバートンに──捧げ剣!」
 遠くから騎士団長の声が響き、ガシャッと硬質な音がすると共に、頭上で交差されていた剣が真っ直ぐ上を向いた。
 私は、もう異界への入り口を前にしている。
 鏡かと思うほど厚みのない入り口は、絶えず揺らめいて形を変えていた。
 その中に飛び込めば、ヒトが知らない悪魔や魔王がいる世界へ行ってしまう。
 魔王から指定されたというこの場所は、王都から少し離れた聖堂の敷地内にあった。
 近郊の敬虔な信者が日曜に集まりミサをし、広い敷地の中には修道院もあって修道僧が生活している。
 私を遠巻きに見ている彼らは、ただ一心に祈ってくれていた。
 貴族の娘が魔王の生贄に選ばれただなんて、この上ない不幸でゴシップの種だ。
 私は今やこの国中の人間から哀れまれていた。
 あの炎の輪をくぐれば、私はもうこの世の者ではなくなってしまう。
 ──恐ろしい。
 きっと、あっという間に知性のない悪魔が群がり、食い散らかされてしまうに違いない。
 私はこんなことのために、誇り高いアシュバートン家の娘として生まれたんじゃないのに──。
「アシュバートン侯爵令嬢、我らのためにありがとうございます」
 異界の入り口側(そば)に立っているのは、大司祭さま。
 白い法衣を着た彼は、青い目に痛ましそうな感情を込めて私を見ている。
 そして──彼は私の背後に回った。
「最後にあなたへ神の祝福を」
 白いドレスの背中に、大司祭さまが聖印を指で描く。
 ──待って。行きたくない。
 まだ、生きていたい。
 唇が戦慄(わなな)き、ドレスが風に翻る。
 この日のために用意されたドレスも、魔王の花嫁を意味しているのか純白の物だった。
 ずっと憧れていた純白のドレスを着るのが、こんな日だなんて……。
 風が吹き、私が『薔薇の令嬢』と呼ばれる由縁である、薔薇色の巻き毛が顔にかかる。私のエメラルドグリーンの目は、命乞いを求めた光を灯していたのだろうか──。
「……お許しください」
 乾いた唇から漏れた弱々しい声は、いつもの私のものではない。
 縋るように振り向いた私に、大司祭さまは「命乞いをしてはいけない」と首を左右に振った。
 そして──。
「あっ……」
 ドンッと背中が押され、二、三よろめいた後、私は黒い炎の輪に飛び込んでしまった。
 押したわね!
 自分のタイミングで飛び込もうと思っていたのに!
 そう叫ぼうと思った瞬間、私の体は異質なモノに包まれ──異界へと放り込まれた。

オススメ書籍

初恋御曹司にまた恋しています

著者有坂芽流
イラストnira.

「初めて出会ったときから、君が欲しかった」――親友の兄、遥希は美紅の勤務する会社の御曹司。社長である彼の秘書になった美紅だったが、初恋の相手である遥希への恋心を身分違いだと必死で封印する日々。一方遥希も、四年ぶりに再会した美紅との距離と縮めようとしない。ときおり見せる優しい瞳は、あの頃と変わらないのに……。しかしある日、ふたりきりの社長室でいきなり抱きしめられて……!? 怖いくらい過保護な御曹司と王子様に恋する女の子の、ピュアなラブストーリー。

この作品の詳細はこちら