夢中文庫

夜獣~ふたりの花婿と薔薇の聖女の繚乱~

  • 作家臣桜
  • イラスト鈴ノ助
  • 販売日2019/8/2
  • 販売価格800円

孤児院育ちのローザは18歳まで両親が迎えにくるのを待ちわびていたが叶わず、“シスターマリア”となり神に仕える身に。ある日突然、体に聖痕を宿したことで異端審問官がマリアのもとに使わされることになる。彼らの一部は、昨今世間を騒がせている吸血鬼を狩る役目も担っていた。ひとり教会で過ごす夜、扉の向こうからマリアの名を呼ぶ男の声が。「お前のすべてをもらいに来た」吸血鬼・キースは彼女を熱く求め、襲いかかる。そのとき異端審問官として教会を訪れたジェラールに間一髪で救われるマリアだったが……。吸血鬼とヴァンパイアハンター、二人の男。それぞれの愛情は聖女の身体に深く熱く刻まれ、永遠に彼女をともに愛し続ける──

第一章 うち捨てられた薔薇の名は
 彼女は孤児院のシスターからローザと呼ばれていた。
 両親の顔は記憶になく、優しいシスターの話によれば、ローザは赤ん坊の時に孤児院の前に捨てられていたそうだ。
 バスケットに入れられ、白いレースの産着に包まれたローザはスヤスヤと眠っていた。そして体の上には、『この子の名前はローザです』というメモと、ローズクォーツのロザリオが置かれてあった。
 ローザが聖セシリア孤児院に引き取られた後、本体となる修道院に多額の寄付が寄せられたらしい。
 修道院にいた誰もが、その寄付金の送り主がローザの親だと気づいた。
 だが小切手は匿名で、調べようにも修道院が探偵を雇うなど聞いた事がない。
 小切手を持ってきた使いは、ローザが十八歳になるまで決まった額の寄付金を贈ると言った。
 寄付金があったので、ローザは孤児院で不自由せず暮らす事ができた。
 基本的な扱いは他の子と同じだったが、多額の寄付があったからこそ着る物や食べ物に困った事はない。
 孤児院そのものを建て替えるほどの額ではないので、隙間風が寒いなどの不満はある。だがひもじい思いをしたり、不衛生な生活を味わう事はなかった。
 物心ついた頃には、ローザは名前の通りバラの花のような可憐な少女に育っていた。
 衣服はチャリティーで得たワンピースだが、真っ白な肌やバラ色の頬。サファイアの如く輝く目や、色素の薄いプラチナブロンドは大人の目を引いた。
 孤児院を訪れた大人たちは、ローザを引き取りたがった。
 きっと十年も経てば、この子は類い稀な美少女になる。
 そんな確信を得た大人たちは、見目のいいローザを養女やお飾りのメイドにしようとした。
 だがシスターたちは、ローザが尊い存在──ある程度の爵位を持つ貴族の娘だろうと見当をつけていた。
 勝手に誰かに引き渡せば、いつかローザの両親が彼女を引き取ろうとした時、妨げになるのでは? と思ったのだ。
 寄付金が十八歳までと言われていた事から、十八歳になった時に迎えが来てもおかしくないと言う予想もしている。
 そのようにローザはシスターたちの手厚い保護を受けていた。しかし成長と共に、周りの子供たちの変化にも敏感になっていた。
 十歳も過ぎれば、子供たちは自分の行く末を考える。
 奉公先を探す女の子もいれば、男の子は町工場の下働きを就職先として見つける。
 周りの子たちが生きる事に貪欲になる中、ローザはシスターたちに「あなたはここにいるのよ」と言われていた。
「どうしてわたしは働いてはいけないのですか?」
 不思議に思ってシスターに尋ねると、優しい彼女は困ったように微笑む。
「もしかしたら、いつか本当のお父様とお母様がローザを迎えに来るかもしれないでしょう? 十八歳になる時、もしかしたら何かがあるかもしれません」
「本当の……お父様とお母様……」
 その言葉は、ローザに大きな希望を与えた。
 自分の出自は分からないが、ローザという名前とロザリオが与えられた。
 変わりばえのない毎日の中で、ローザは薄ピンクのロザリオに夢を見る。
 シスターに聞けば、その石はローズクォーツと言うそうだ。
 そしてローズクォーツは、『愛の石』と呼ばれているとも聞いた。
(きっとお父様とお母様は、わたしを遠い場所から愛してくださっているのだわ。わたしがいい子にしていたら、必ず迎えに来てくださるのよ)
 幼く純粋なローザは、自身の思いを真っ直ぐに信じた。
 信じれば信じるほど変わりゆく周りの子たちへの羨望や、後れを取るかもしれないという不安も薄れてゆく。
 代わりに毎日の祈りをもっと深めれば、自分がより純粋な『いい子』になるのだと疑わない。
 この世の悪など知らず育ったローザは、性善説そのもののどこかズレた美女に育っていった。

オススメ書籍

クールな鬼上司の恋人モードは、甘々溺愛が止まりません

著者椋本梨戸
イラスト蔦森えん

榎並咲には、絶対に会社にバレるわけにはいかない重大な秘密がある。それは、とある事情で給料だけでは足りない費用を補うため、内緒でアルバイトをしていること。なのに事もあろうか鬼上司である旭諒太郎に知られてしまった。絶体絶命の大ピンチ!! しかし、ひとりで抱え込んで無理しなければならない彼女の事情を知った諒太郎は、好待遇の『副業』を提案、なんと咲の味方に! ただ、諒太郎が咲に傾ける優しさは情の篤さからだけではなくて……!? 諒太郎の思いやりに包まれるうちに強く惹かれた咲。そうして恋人になった諒太郎からの溺愛は壮絶に甘く止まらない──頑張りすぎる咲と優しく支える諒太郎、ふたりの恋は思いやりに溢れ……

この作品の詳細はこちら