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魔性の色男は鋼鉄処女を蕩かせる

  • 作家小山内慧夢
  • イラスト藤谷一帆
  • 販売日2018/10/16
  • 販売価格500円

本好きが高じて文字に魅了され、王城で文官として文字を綴る仕事をしているザシャ・シーレーンは融通が利かない仕事人間。人との関わり方が下手なザシャは、ひょんな事から目の覚めるような色男、アロイス・クリューガーとお近づきになってしまう。彼の美貌にドギマギしながらも、真面目な仕事ぶりを褒められ悪い気はしないザシャ。しかし適度な距離感を保っていた二人の仲を勘違いした同僚の心無い言葉に、とうとうザシャの堪忍袋の緒が切れる!『することしないと妊娠なんてしませんよ!』自ら墓穴を掘ったザシャはクリューガーを見ると体が熱く火照り、我慢ができなくなってしまう……。お堅い眼鏡女子は百戦錬磨の色男に陥落してしまうのか?

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文字は人類がつくりあげた最大の宝物ではないか──とわたしは思う。
 無駄のないフォルムを持ち、組み合わせることで無限の可能性を生み出し過去と未来を繋ぐもの。およそ生きているうちに経験できようもないことだって、文字を追って追体験することが出来るし、空想の翼を羽ばたかせて文字の海にたゆたうことだって出来てしまう。
 わたしは小さい頃から本が好きだった。すり切れるほど読んだものでも、とりあえず本さえ与えておけば大人しく、泣きもしない子供だったと聞かされた。事実、幼い頃のことはあまり覚えていないが読んだ本のことはよく覚えている。
 本を開くと今まで知らなかった世界が目の前で広がり、少し大袈裟に言うと魂までも解放されたような気がしていた。
 そのうちにわたしは物語の他に、文字自体にも興味を抱くようになった。何故この文字はこの形なのだろう。いつからこの形なのだろう。元々の意味は?
 何度も何度も文字を写し書きするうちに活字のように整然とした文字が書けるようになった。しかし興味は尽きない。そんなとき、お城には唸るほど本があるのよ、と年上のお姉さんが教えてくれた。それからのわたしはいかに王城に行くかを考えるのが日課になった。
 十五歳になったとき、王城で雇って欲しくて特殊なアリシャ書体で手紙をしたためた。誰に宛てたら良いかわからなかったので直接持っていって門番をしている衛兵さんに差し出した。
「これを、偉い人に渡してください」
 衛兵さんは怪しんだのかすぐには受け取らず中腰になってわたしと目を合わせた。
「これは、どういう意図で書いたものかな?」
 それはそうだろう。いきなり小娘が来て手紙を渡すなど不審すぎる。わたしは怪しまれているのを感じて慌てた。
「変な手紙ではありません! わたし、字を書くのが好きで! お城ではアリシャ書体を使うって聞いたので、それで、ええと……」
 普通の町娘がお城で仕事がしたいと考えるのは珍しいことではない。下働きで年上のお姉さん達も何人か働きに行っている。しかしそれはどれも誰かの紹介があってこそだ。飛び込みで働きたいと売り込みに来るなど聞いたことがないし、警備上問題があるのだろう。
 だが、わたしはどうしてもお城で働きたかった。お城には街ではお目にかかれない貴重な本や資料が沢山あるのだと聞いていたから。
「私が読んでも差し支えないかな?」
 突然後ろから声が掛けられた。振り向くと衛兵さんよりもっと背の高い軍人さんがわたしの後ろに立っていた。逆光でよく見えなかったが口元に優しそうな笑みをたたえていたような気がする。
 衛兵さんがなにやら注意するようなことを言ったけれど軍人さんはそれを手で制止した。恐る恐る私が頷くと軍人さんは大きな手で手紙を開いてそれに目を通した。しばらくの沈黙の後、軍人さんはかさかさと手紙を元通りに折って懐にしまった。
「あっ」
「私が偉い人に話しておいてあげよう。明日、またこの時間においで」
 そう言うと軍人さんは門の中に消えた。わたしは衛兵さんに帰るように言われ後ろ髪引かれながら家路についた。
 そして、わたしは今、王城でペンを握っている。

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