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溺愛インモラル 義弟とわたしの甘やかな攻防

  • 作家西條六花
  • イラストウエハラ蜂
  • 販売日2019/02/13
  • 販売価格700円

新しい土地で独り暮らしを始めようとしていた保育士の若葉は、そこでかつて三年間だけ「家族」だった要と再会する。十年ぶりに会った彼は大人の男性に成長し、表具職人になっていた。要の作業場を見学させてもらった若葉だが、誤って預かり品である骨董の掛け軸を破損し、彼の手に怪我をさせてしまう。「俺はお前を姉だと思ったことは、一度もない」「抱きたい。――抱かせて」掛け軸と怪我を盾に迫られ、若葉は断りきれずに要の要求に応じるものの、「元義弟」が相手という背徳感を拭えない。しかしあの手この手でアプローチしてくる彼に、次第に心惹かれ……?真面目な「姉」と、コミュ障だが色気たっぷりな元義弟の、再会ラブストーリー。

*第一章
 三月最後の日である金曜日、朝八時半の室内には心配そうな声が響く。
「ねえ若葉(わかば)、いよいよこれから独り暮らしだけど、もし何か困ったことがあったらすぐ連絡ちょうだいね? 夜中でもいいから」
 よそ行きのワンピースを身に纏い、鏡の前でピアスを着けながら、母親の蓉子(ようこ)がそう声をかけてくる。
 彼女のスーツケースを玄関に運んだ皆瀬(みなせ)若葉は、ため息をついて答えた。
「大丈夫。元々家事をするのは慣れてるし、独り暮らしになったからって、いきなり何かが変わるわけじゃないんだから」
「そうかもしれないけど、でも心配なのよ。だって私たち、離れて暮らすのは初めてじゃない?」
 現在四十九歳の蓉子は、年齢を感じさせないほど華やかで美しい。それもそのはず、彼女は高級クラブの雇われママを長く務め、三度の離婚経験を持つ恋多き女だ。
 卓越した話術と美貌で夜の世界を渡り歩いてきた蓉子だが、家事能力は皆無で、これまでは娘の若葉が同居して家のことをすべてこなしてきた。しかしそれも、今日で終わりだ。仕事を辞めた蓉子は恋人のいる宮古島に移住し、若葉も新しい土地に引っ越す。
「お母さんこそ、またすぐ別れたって言っても知らないからね。もういい歳なんだし、あっちこっちにフラフラするのも考えないと」
「大丈夫よー。だって今回は、この私が『仕事を辞めてもいい』って思うくらいに好きになった相手なのよ? 向こうに行ったら、精一杯彼を支えるつもり」
「うふふ」と笑う蓉子は、至って無邪気だ。
 去年、彼女は旅行で訪れた宮古島でダイビングショップを営む六歳年下の男性と出会い、運命的な恋に落ちた。
 それから約一年間、まとまった休みを取って会いに行ったり、毎日のスカイプのやり取りで絆を深め、蓉子はついに仕事を辞めて宮古島に移住することを決意した。四度目の結婚に至るかはまだわからないが、彼女が三十代のときに購入したこのマンションも処分するというのだから、おそらく生半可な覚悟ではないのだろう。これまで男と別れるたびに泣きつかれ、母親を慰めていた若葉は、感慨深い気持ちになる。
 既に大きな家具もなくガランとした部屋に、ふいにインターフォンの音が鳴り響いた。
「はい。──あ、今行きます」
 若葉は通話を切り、蓉子に「タクシー来たよ」と告げる。
 エレベーターで一階に下りると、外は春のうららかな日差しが降り注いでいた。スーツケースをタクシーのトランクに入れた運転手が、親切にも後部座席の窓を開けてくれる。
 若葉は身を屈め、窓越しに蓉子に言った。
「空港まで見送りに行けなくてごめんね。気をつけて」
「いいのよ、あんたも引っ越しがあるんだもの。向こうに着いたら連絡するわ」
 蓉子が「じゃあね」と笑顔で手を振り、彼女を乗せたタクシーが走り去っていく。それを見送った若葉は、小さく息をついた。
(さてと、引っ越し屋が来るまで三十分あるし、最後に雑巾がけでもしておこうかな)
 ──今日から住み慣れた土地を離れ、市内の違う区で暮らす。二十七歳にして、初めての独り暮らしだ。
 大学を出て保育士になった若葉は、同じ職場で働いて五年になる。去年くらいからスキルアップのための転職を考えていたが、そんな矢先に蓉子がマンションを処分する意向を示し、いい機会だと思った。
 今まで勤務していた保育園を卒園式後に退職してから、既に十日ほどが経っている。転職先はもう決まっていて、ここから交通機関で四十分ほどのところだ。その近くに借りたアパートに今日引っ越し、週明けの月曜から勤務する予定になっていた。
(この週末で、荷物を全部片づけられるかな。いろいろ買い物もしなきゃいけないし)
 転居後の段取りを、頭の中で考える。区役所への転居届の提出や銀行・郵便局の住所変更、ネット回線の開通など、やることは山積みだ。
 その後は時間どおりに引っ越し業者がやって来て、若葉は昼前に新居に到着し、大量の段ボール箱を前に息をついた。まずは冷蔵庫の電源を入れ、カーテンを取りつけてプライバシーを確保したあと、昼食を買いがてら外に出る。

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