夢中文庫

背徳の甘き毒 眠りの黒い森

  • 作家西條六花
  • イラスト鈴ノ助
  • 販売日2020/05/12
  • 販売価格900円

十七歳の姿のまま六十七年の眠りから目覚めた、辺境伯令嬢エリノア。兄のイザークに生き写しの青年イヴァンから、家族や密かに慕っていた兄も亡くなったと聞き、衝撃を受ける。その夜、食物や水でも癒えぬ飢餓感に懊悩するエリノアの元に彼が現れ、「君は〝黒い森〟で倒れて以来、人の精気を糧にする身になった」と告げる。信じがたい話だったものの、彼の血を舐めると確かに飢餓感は消えた。もっと効率よく与えられる方法がもう一つある──イヴァンはそう言って、エリノアを強引に抱く。兄と瓜二つの彼が与える精気は甘美で、背徳感をおぼえつつ夜ごと溺れていくエリノア。しかし人外であることに苦しむエリノアの前に、不死者が現れ……

*プロローグ
 ──ふいに誰かに呼ばれた気がして、エリノアは目を覚ました。頭にぼんやりと霞がかかったようになっていて、考えが覚束(おぼつか)ない。
(ここは……どこなの? わたしは……)
 どうやら自分は、大きな天蓋付きのベッドに横たわっているらしい。
 室内に灯された控えめなランプの明かりで、周囲の様子が見える。ベッドの四方から垂れ下がる布はたっぷりのドレープを作り、白い薄布と共に金色のタッセルでまとめられていた。
 柔らかな印象のクリーム色の壁には多くの絵が掛けられ、艶のあるマホガニーの家具やあちこちに生けられた瑞々しい花が、ロマンチックな雰囲気を醸し出している。
 女性らしく豪奢な部屋には見覚えがあるような気もするが、ないようにも感じた。自分がどこにいるのかがわからないエリノアは、じわじわと不安になった。
 ゆっくりとベッドに上体を起こした瞬間、クラリとした眩暈をおぼえる。身体に力が入らず、どうにか足を下ろしたものの、立ち上がるのに失敗して床に倒れ込んだ。
 打ちつけた膝と手のひらに、強い痛みが走る。
「……っ」
(どうして? 脚が……)
 脚だけではなく腕にも力が入らず、床から起き上がることすらできない。まるで歩き方を忘れてしまったような感覚に、エリノアはひどく混乱した。
 どうにか肘で上体を起こし、重い身体を引きずって部屋の扉を目指す。歩けばすぐの距離なのに、這いずることしかできない身体では、扉までがかなり遠く感じた。
 やがてようやく扉まで辿り着いたエリノアは、震える手で扉を開けて廊下に出る。人気(ひとけ)のない廊下は暗く、しんとして底冷えがしていた。
 身体に力が入らない上、自分がどこにいるのかもわからない。そんな状況に次第に恐怖がこみ上げ、目に涙がにじんだ。
(怖い……誰か、誰かいないの……?)
 手も身体も、床からの冷気でどんどん冷たくなっていく。
 そのとき廊下の向こうにチラリと明かりが揺れ、声が響いた。
「……お嬢さま……?」
 燭台を手に螺旋(らせん)階段から現れたのは、痩せた老齢の男だった。自分を見つめる眼差しに驚愕とかすかな畏怖(いふ)を感じ、エリノアは不審に思う。
(どうして……なぜわたしを、そんな目で見るの……?)
 部屋からここまで這いずって来たが、萎えた身体にはそれが限界だった。強い疲労感に襲われ、エリノアはそのまま吸い込まれるように意識を失った。
* * *
「……目を覚ましたって……?」
 突然駆け込んできた者の言葉に、部屋の主である黒髪の青年が驚きの声を上げる。
 そこは重厚な雰囲気の、執務室だった。老齢の城代が動揺しながら説明する。
「先ほど見回りに行ったところ、部屋から這いずって廊下までお出になられておりました。しかしわたくしの顔を見てすぐに意識を失われましたので、ベッドにお寝かせし、急ぎ旦那さまにご報告に参った次第です」

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