夢中文庫

狂おしいほどあなたが欲しい

  • 作家佐木ささめ
  • イラスト緋月アイナ
  • 販売日2018/8/21
  • 販売価格300円

鈴子は神社の宮司の一人娘で跡を継ぐことを決意している。だが恋人の武もまた会社社長の長男で会社を継ぐ立場にいた。跡取りという立場から互いの両親は二人の結婚を認めてはくれなかった……引き裂かれた愛。悲しさのあまり立入禁止の本殿の外陣で泣いていた鈴子。そのまま寝入ってしまった鈴子は御神体である霊剣に胸を貫かれる夢を見る。目覚めたとき、鈴子の体は幼くなっていた! 咄嗟に武を訪ね、家出をしたと言ってそのまま転がり込むものの、鈴子と気づかない武は冷たい。まだ鈴子を想っている武を愛しく思いつつ、自分だと気づいてもらえないことにもどかしさが募る――佐木ささめによる切なくてエロティックなラブストーリー。

YAHOO!JAPANブックストアで購入
BookLiveで購入

その日は酷暑と呼ぶにふさわしい日だった。
 午後十二時を少し過ぎた現在、真夏の強烈な光が降り注ぐ屋外は、休日でも人影はほとんどない。
 そんな中、三階建ての低層階賃貸マンションを見上げる少女は、うだるような厳しい暑さに軽いめまいを感じて視線を下した。猛暑日となった今日は、日陰に立っていても熱気でじりじりと炙られる。何もしていないのに汗が止まらず、十代特有の瑞々しい肌から光る粒が滴り落ちた。
 体力が少しずつ削り取られていく気分だと彼女は思う。このままここで突っ立っていたら、遅かれ早かれ熱中症で倒れるだろう。
 それでもこの場から動くことができず、めまいが落ち着くと再びマンションを見上げた。
 目的の部屋は三階だ。この暑さのため窓はぴっちりと閉じられ、遮光カーテンも引かれている。住人が在宅しているかどうかは分からない。
 室外機は動いているものの、彼は夏中、二十四時間途切れることなくエアコンを稼働させていた。……その方が電気代の節約になると言ったのは自分だ。
 あの頃は幸せだった。まさか今のような状況になるなんて思いもせず、好きな人と過ごす時間がこの先もずっと続くのだと信じていた。なのに。
「……鈴子(すずこ)?」
 己の名前を呼ぶその声だけで、相手が誰かは悟った。意識を見上げる建物から視界の右隅へ移すと、長身でがっしりとした体躯の男性がいる。
 ゆっくりと首を動かして視線を向ければ、彼は口をポカンと開けて「違う……」と呟きながら放心した表情でこちらを見つめてきた。
 会うのは二週間ぶりだろうか、相変わらず綺麗な顔だちだと彼女は感心する。少し痩せた印象があるものの、イケメンとの表現がふさわしい容貌だ。やや崩れた表情をしている今も、際立つ美しさは変わっていない。
 ──武(たける)。
 いまだ己の心に住み着く男を声にせず呼んでみた。
 脳内で反響するその音には愛おしさが混じっており、思わず彼の胸へ飛び込みたい衝動が膨れ上がる。同時に、それができないことが苦しい。
 恨みにも似た感情を抱きつつ、あらかじめ考えていた言い訳を口にした。
「SNSの里親募集を見て、猫を見たいと思ったんです」
 互いに連絡は断っているものの、彼が何をしているのか知りたい欲求にどうしても勝てなくなり、武のアカウントをこっそりのぞいていた。そこには一昨日の夕方、仕事帰りに産まれたばかりの仔猫を拾ったので、里親になれる人を募る書き込みがあった。
 彼は見開いた眼を何度か瞬いて首をひねっている。
「えっと、君、俺のSNSを見たんだよな。確かに里親は募集してるけど……、俺の住所は公開してないよな?」
 ……言われてみればそうだった。誰もが閲覧できるウェブ上に個人情報を載せるほど彼は馬鹿ではない。
 内心でうろたえてしまったが、動揺が顔に出なかったのは日ごろ精神統一しているせいだろうか。鈴子は無表情をたもったまま脳をフル回転しつつ、体の向きを変えて彼と向かい合う。
「猫を拾った写真に公園の風景が映り込んでいたんですけど、あれってすぐ近くにある“みゆき公園”ですよね」
「その通りだけど……、君って近所の子?」
「いえ、このあたりの地理に詳しいだけです。……それでこのマンションの近くを通ったら、猫の泣き声が聞こえた気がして見上げてました」
 産まれたばかりの仔猫のか細い鳴き声が、窓を閉め切った三階の部屋から地上まで届くとは思えない。が、彼は納得した様子だったので助かった。
 それでも質問を投げてくる。
「でもさ、俺があのアカウントの人間だって、よく分かったね」
「……ペットショップの名前が入った袋を持っていたから」
 仔猫用のグッズでも買いに行っていたのだろう。うちの近所に同じ大手ペットショップがあって良かったと、鈴子は心から思った。
 冷静な表情で武を見つめれば、彼はようやく破顔して人懐っこい顔を見せた。
「なるほどね。よく見てるお嬢さんだな」
 別れる前は自分が独占していた笑顔が目の前に差し出されて、嬉しさと哀しさで涙腺が刺激された。必死に誤魔化そうと何度も瞬きを繰り返せば、彼は「あー」と声を出しつつ人差し指で頬を引っかいている。

オススメ書籍

溺愛策士の策略でしっかり餌付けされました

著者黒田美優
イラスト松本美奈子

連日の残業ですっかり枯れ生活の綾女。今夜も疲れて帰ってきたら、いつの間にか久保田という名のお隣さんが引っ越してきていることに気づく。そしてベランダで顔を合わせることに。イケメンだけど、どうやら雪子という名のカノジョがいて、ケンカの末、仲直りをする前の事故に遭って入院中? なのに久保田は手作りの料理を作りすぎたとおすそ分けしてくれるようになる。戸惑う綾女だが、料理はおいしいし、久保田は素敵だし……すっかり気持ちを持っていかれていることに気づく。でも、彼には雪子さんが……。背徳と恋心に悩む綾女だったが、そんなある日の夜、久保田がコンビニに行こうと誘ってきて、そして告白を――

YAHOO!JAPANブックストアで購入
BookLiveで購入

この作品の詳細はこちら