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強気で強引な幼なじみに弱っているところを付け込まれました

  • 作家佐木ささめ
  • イラスト筑谷たか菜
  • 販売日2018/10/11
  • 販売価格300円

大学の時から介護をしていた祖母が亡くなり、アルバイト程度しか労働経験のない百子は将来に不安を覚え落ち込んでいた。そこに現れたのは幼なじみで元カレの鳥居本慎。久しぶりの再会に、懐かしさや後悔が去来する百子を前に慎が言い放つ。「迎えにきた」大阪までついて来い、今すぐ決断しろと迫る慎に押し切られる形でついて行く百子だったが、心はまだ慎を熱く想っていることを痛感する。でも、彼は大会社の跡取り。彼と自分では釣り合わないのでは……悩む百子のもとに慎が見合い相手と仲良く手をつないでいたという者が現れ、さらには、婚約者まで登場して……!――佐木ささめが仕掛けるラブ・トリックをあなたは見破れるか!?

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プロローグ
 誰もいない執務室で嘆息(たんそく)を漏らした鳥井本(とりいもと)は、疲れた顔を天井へ向けた後、秘書にコーヒーを頼んだ。しばらくしてノックの音と共に姿を現した女性秘書は、儀礼的ではない微笑を浮かべてデスクにそっとカップを置く。
「お疲れですね、支社長」
 見つめてくる瞳にはこちらを案じる翳(かげ)りがあった。
 秘書という立場上、職場では彼女の方から決して触れようとはしないものの、こうして相手の心に寄り添おうとする気づかいは嬉しい。
 鳥井本はちらりと時計に視線を向け、次の予定まで少し時間があることを確認してから彼女に手招きをする。
 上司の意図をくみ取った部下は、ややためらいながらも大人しくデスクを回り込んで彼の正面に立つ。男の手に導かれるまま、椅子に腰かける上司の膝の上に座った。
「支社長……疲れているなら、これはやめた方がいいのでは……」
 誰かに見られることを恐れる怯えと、職場で恋人と触れ合う羞恥で彼女の頬がうっすらと染まる。その愛らしさに鳥井本の疲れが癒やされるようだった。
 彼は秘書の小柄な体をゆるく抱きしめて胸元に顔をうずめる。細くて白い女の指が、固めた髪を崩さないようにそっと頭部を撫でてきた。
「……最近、何か悩み事でもあるのですか?」
 恋人の囁きに鳥井本は答えることなく、しばらくの間、彼女の香りを堪能し続ける。
 ──悩み事なら、ある。
 だがそれは彼女にも関わることなので言いたくない。というか言えない。
 鳥井本は揺らぐ胸の内を抑え、名残惜しげに華奢な体を離した。
「ありがとう。ちょっと回復した」
「……はい」
 優秀な秘書でもある彼女は役目を終えたことを悟り、着衣の乱れがないかをチェックしてから退出する。
 彼女が立ち去ると、鳥井本はデスクの鍵付き引き出しを開けて白い大判封筒を取り出した。先日、親族から「ぜひにも」と渡されたこれは見合い相手の釣書だ。先方はこちらを気に入ったらしく乗り気だと言われている。相手側の立場も加味すれば見合いを断ることは会社的にまずい。だが自分には彼女がいる。……いったいどうすればいいのか。
 鳥井本は封筒を引き出しに戻して鍵をかけ、背もたれに体重を預けて瞼をきつくつむった。
第一章 六年ぶりの再会
 暦(こよみ)の上では短い秋が終わり、本格的な冬に入ろうとする時期だった。その日は素晴らしい小春日和で、天は高く青く、雲一つない透き通った美しい空を木口(きぐち)百子(ももこ)の頭上に広げていた。気温も上昇し、たまに吹き抜ける風は冷たくても心地よい。
 穏やかな気持ちを与えてくれるご褒美のような休日。もうすぐ訪れるだろう寒波に震える前の、ひとときの癒やしなのかもしれない。しかし百子は鉛のような重い心を抱えて息を吐いた。幸せが逃げるから溜め息など吐きたくないのだが、胸の奥では疲労にも似た重苦しさが消えなかった。
 ──これからどうしよう。
 手元にある求人情報誌へ視線を落としたとき、ジャリッと土を踏む足音が自分の正面で止まる。反射的に顔を上げれば、黒を基調としたシャツに上等そうな黒いジャケットとスラックスを着用した、黒ずくめの長身男性が立っていた。
 彼──鳥井本慎(しん)は、無言で右手に持った紙パックの飲料を渡してくる。反射的に受け取ると、それは無糖のリキッドアイスティーだった。こちらの好みを覚えていたらしい。
 百子は小さく口元をゆるめた。
※この続きは製品版でお楽しみください。

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