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契約同棲はじめました!~幼馴染との恋はフィクションから~

  • 作家櫻日ゆら
  • イラスト上原た壱
  • 販売日2019/9/10
  • 販売価格600円

恋愛小説家を志して3年前に仕事を辞めた青葉は、実家暮らしでニート真っ只中の27歳。彼氏ナシ仕事ナシで、いつのまにか部屋着とちょんまげヘアーが定着してしまった娘を憂いた母から、今日も小言を聞かされている……。そんなある日、「青葉。あなた、家を出なさい」……!? まさかの一言に大ピンチ! 収入も少ないのにどうしたら! この緊急事態に、隣に住む幼馴染の恭也をいつものベランダへと呼び出すと、なんと彼も「お見合い」をさせられそうなピンチらしい。タイミングが重なった二人は、恋人のフリをする代わりに同居をするという〝契約〟を交わすことに……!? 一緒に暮らすうち、徐々にお互いの知らない一面が見えてきて――

第一章 似た者同士
 パソコンのキーボードを打つ軽快な音が部屋に響く。私は、頭の中に浮かぶ映像を文字へと変えていた手を止め、ディスプレイに並ぶ打ち込んだばかりの文章を目で追った。
「こんなに筆が乗ったのは久しぶり。このペースだったら、なんとか間に合うかな……」
 机の上にある置型カレンダーのページをめくった。まだ先にある印を確認して、ほっと安堵の息を漏らす。
「青葉(あおば)、入るわよ」
 私が答える前に、ドアは開けられた。
「お母さん。今、いいところだったんだけど……」
 つい不満を垂れながら、回転式の椅子ごと、現れた母の方を向く。しかし、すでに渋い顔つきの母からは、言葉よりも先にため息が返ってきた。
 あー、今日も始まる……。
 そう思った矢先、大きく息を吸い込む音が聞こえてきた。耳を塞ぎたくなるのをすんでのところで堪えながら、私は椅子の背もたれに深く身体を預けて構える。
「いつ見てもちょんまげヘアーで、一日中部屋着のまま家に閉じこもって。とても年頃の女の子とは思えないわね!?」
 両手を腰に当てた母は、私の頭のてっぺんから足先に向かって視線を流した。
 ……失礼な。たしかに、執筆に没頭するとついつい格好も気にせず机に向かってしまうけれど、普段からまったく見た目にこだわっていないことはない。メイクは人に会う時くらいにしかしないが、オシャレをするのも好きだし、ファッション雑誌に載っている綺麗な女性を見るのも好きだ。胸下まで伸ばしている黒髪だって、頻繁に美容室に行くことは出来なくとも、こまめにケアはしている。ただ今は、そのどれもが私の優先順位の一番ではないだけなのだ。
 しかし、そんなことを口にすれば火に油を注ぐだけだと重々理解していたので、私は本音を心の奥底にそっと仕舞う。
「青葉、あなたももう二十七でしょ? 小説家になりたいっていう夢があるのはわかるけど、そろそろ再就職することも考えてみたら? 書くことに専念したいからって突然退職してからいったい何年経ったのよ。あなた、今後の人生のことちゃんと考えてるの? ある程度の年齢になってから急に働こうと思っても、簡単じゃないのよ!?」
 その言葉に、ぐっと言葉を詰まらせる。
 私は三年前、就職した印刷会社を辞めた。
 一度は仕事をしながら、兼ねてから夢だった小説家になることを志したが思うようにならなかった。二年間働き、その間も色んなことを考えたが、夢を諦めることは出来なかった。そして、私は一念発起し、退職してとことん挑戦する道を選んだのだ。
「仕事しながら書いてる人もいるし、わかってはいるんだけど……。私不器用だから二つのことを同時に出来なかったんだよね。それに正直私の今の実力じゃ、仕事しながら叶えられるほど甘くないっていうか……」
 こうして家に閉じこもって書いていても、この前別の作品で出した公募では三次選考は通過して最終選考候補作品には残ったものの、受賞は適うことなく落選してしまった。
 しかし、私の原稿を読んだ編集さんが、担当についてくれることになった。すぐにデビューが出来るわけではないけれど、あと少しで夢を掴めるような気がする。
 それでも、そのあと少しが遠いんだ。
「人生の方が甘くないわよ!」
 怒鳴り声が耳をつんざく。
「別に小説家を諦めろって言ってるわけじゃないの。でも、自分がいい人でも見つけて結婚してもいい歳になっていることを自覚しなさい。このままじゃ、孫の顔どころか旦那さんの顔すら見られないんじゃないかしら」
 ……結婚、ね。そう言えば最近、周りからも『結婚した』や『子供が生まれた』なんて報告が段々と増えてきた。でも、私は……。

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