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曖昧上司~きっちり女子がゆるゆる惑わされてます~

  • 作家里崎雅
  • イラスト駒城ミチヲ
  • 販売日2018/03/02
  • 販売価格500円

「曖昧にしておく意義なんてわからない」──物事をうやむやにするのが苦手、きっちりした性格の朝美。ある日、同棲していた彼氏の浮気が発覚。朝美はポリシーに従ってすぐに同棲解消。しかし家を出たはいいけれど、泊まるあてがなかった。そんな時、上司の彰人が近場でいい部屋があると提案してくれるのだが、実はそれは彰人のマンションの一室。最初は拒んだ朝美だったが、新しい部屋を見つけるまでと一緒に住まわせてもらうことに。職場ではきちんと仕事をこなす彰人のプライベートでみせる曖昧さと、自分への好意に戸惑う朝美だったが、彰人のペースに巻き込まれて少しずつ変わっていく自分に気づき…。曖昧に溶かされるラブストーリー。

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──人のスマホを勝手に見るのは犯罪行為だと知っているけれど、この場合でもアウトだろうか。
 テーブルの上に置きっぱなしのスマートフォンから軽やかな通知音が鳴り、画面にはメッセージが現れる。それをじっと見つめながら、糸川(いとかわ)朝美(あさみ)はそんなことを考えていた。
“さっきはありがとう”
“会ったばかりなのに、もう会いたくなってる”
“誠(まこと)のことを考えると、胸がきゅんきゅんしてくるの”
“本当に大好き”
“ねえ、明日も仕事の後に会えるかな?”
 このスマートフォンは朝美のものではない。半年前から同棲している彼氏のものだ。
 立て続けに鳴る通知音と、表示される甘いメッセージ。頭が真っ白になったのは最初の数秒だけで、朝美はすぐに冷静になった。メッセージをつぶさに確認しつつ、いざという時のためにと自分のスマートフォンで撮影を繰り返す。
“彼女より私の方がずっと好きって言ってくれたの、すごく嬉しかった”
“信じて待ってるからね”
 そのメッセージの直後に「マリがスタンプを送信しました」の表示をもって、通知音は止まった。
 同棲中の彼氏はここ最近、帰宅するや否やスマートフォンの通知を切っているようだった。それが少し引っかかってはいたものの、問い詰めるほどの理由もなかったので気にしないようにしていた。
 これが原因かと、納得する。
 どうやらメッセージの相手は、彼女としての朝美の存在も承知の上らしい。同棲していることだって知っているかもしれない。それでこれだけしつこくメッセージを送って来るということは。
「……これって、宣戦布告?」
 ぽつりとそう口にした次の瞬間、風呂に入ったはずの彼氏が慌てて脱衣所から飛び出してきた。
「……どうしたの?」
「あ、いや、その……会社から、連絡来るはずだったと思ってさ」
 引き攣った笑みを浮かべながらスマートフォンに手を伸ばした彼氏を、朝美はちらりと見上げた。
「メッセージ、めっちゃたくさん来てたよ」
「ほ、本当? 多分、会社の同僚かな……」
「マリって人から。会ったばかりなのにもう会いたいって。彼女より私の方が好きって言ってくれて嬉しかったって。信じて待ってるらしいよ」
 淡々とメッセージの内容を告げると、彼氏はぎょっとしたように目を見開いた。
「お前……人のスマホ、勝手に盗み見たのかよ! 卑怯だな」
「盗み見た、は語弊があるんじゃない? 通知音が何度も何度もしつこく鳴ってたから、何か大事な連絡でもあったかと画面を見てただけ。私はあなたのスマートフォンには全く触っていない。ここは二人で住んでいる部屋だよ。どこを見ようと私の自由。テーブルの上に隠しもせず置いてあったものに目がいっただけなのに、それを盗み見ただの卑怯だの言われる覚えはない」
 一息でまくしたてると、彼氏の表情はみるみる険しくなっていった。眉間に皺を寄せたその表情が、何を言いたいかはすぐわかる。
(あー、可愛くない女だって思っているよね。これ)
 それがわかっても、この状況をうやむやにはできなかった。
 カーペットの上にきちんと座り直すと、眉の上でふつりと切りそろえた黒髪の前髪が微かに揺れた。一度も染めたことのない真っ黒なストレートの髪は、気が強そうに見えると友達に言われたことがある。きっと今は三割増しでキツく見えているだろうな、と自覚しつつ、朝美は鋭い目つきで彼氏を静かに見上げた。
「浮気だって、みなしていいよね。言い逃れできない状況なのはわかるよね?」
「それは……わかる……けど、俺の言い分を聞いてくれても」
「私を言い負かせるだけの自信があるんだったら、その言い分を聞いてもいいけど。場合によっては火に油を注ぐだけかもよ」
 ぴしゃりと言いのけると、さらに彼氏の表情は険しくなった。
 正論を言い負かすだけの言い分などあるはずがない。そう判断したのは当たっていたようで、ただ無言で朝美を睨み付けてくる。
「とりあえず、お風呂に入ってきたら? 盗み見た、なんて言われるのはもう嫌だから、スマートフォンの通知はできれば切っていってほしい。そしたら私も見ないから」
 そう言って彼氏に背を向けると、乱暴な手つきでスマートフォンを掴みバスルームに向かった気配がした。

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