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真面目な騎士様ともふもふなすれ違い

  • 作家皐月もも
  • イラスト霧夢ラテ
  • 販売日2018/10/23
  • 販売価格300円

ヘレナには想いを寄せる人がいる。騎士団の第二部隊長アベルだ。それなのに父はいきなり縁談を持ってきて、決定事項だと言うではないか。怒りと悲しみに思わず家を飛び出したヘレナは、そこで出くわしたうさぎに苦しい胸の内を吐露する。しかし屋敷に連れ戻されると、結婚相手はアベルと言われて驚く。今度は一転喜び勇み、顔合わせに臨むもののアベルの表情は冴えない。疑問に思うヘレナは、もしかして好きな人がいるのでは? と考える。一方、アベルは人間と兎族とのハーフで、うさぎに変身することができる。あの日、偶然出くわしたヘレナから彼女の気持ちを聞いてしまい、身を引くべきだと思い悩むのだが。もふもふうさぎ物語第二弾!

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「絶っ対に嫌!!」
「待ちなさい! ヘレナ!」
 父親の制止を振り切り、ヘレナは屋敷を飛び出した。
 ドレスのスカートを持ち上げながら城下町の住宅街を走り抜ける彼女の姿に、道行く人々は驚いていたが、そんなことには構っていられない。
 足の速さには自信があるけれど、体力は人並みだ。追いかけてくるだろう使用人たちに見つからないよう、身を隠す必要がある。
 ヘレナは城下町の入り組んだ道を複雑に通り、子供たちの遊び場となっている広場を抜け、その先の茂みに隠れた。
「ヘレナ様! ヘレナ様、いらっしゃいませんか? ヘレナ様!」
「おかしいわ。こちらのほうへ走っていったはずなのに」
 ヘレナを追ってきた使用人たちは、肩を上下させて苦しそうにしながらも、必死で彼女の姿を探している。
(どうしよう、もう少し奥まで……)
 茂みの奥は雑木林になっていて、人の気配はない。昼間でも薄暗く、この奥へ行くのはちょっと勇気がいる。
 しかし、彼らに見つかったら屋敷へ連れ戻されてしまう。
 そうしたら、ヘレナは父が突然持ってきた縁談を受けさせられる。
(そんなの、絶対に嫌!)
 ヘレナはグッと拳を握り締め、茂みの奥へ踏み出した──と同時に、ガサガサッと葉っぱが擦れる音がした。
「だっ、誰!?」
 驚いて振り向くと、そこには小さなうさぎが一匹……ヘレナと同様その場で固まったまま動かない。耳をピンと立てて、突然遭遇した人間を警戒しているらしい。
 この雑木林に生息する野生なのだろうか。少々汚れているが、ハニーブラウンの柔らかそうな毛の可愛らしい姿だ。
「う、さぎ……?」
 物音にびっくりしたのはヘレナも同じ。彼女は震える息を吐き出して、胸を撫で下ろした。
 だが、「ヘレナ様」と近づいてくる声にすぐ我に返る。うさぎのほうは、まだ人間に見つかったショックから立ち直れていないのか硬直したままだ。
「うさぎさんも来て! 見つかったら大変なの」
 ヘレナは慌ててうさぎを抱き上げて雑木林の奥へ進んだ。そして、大きな木の幹にある窪んだ穴に身体を無理矢理入れ込む。
 かなり窮屈だが、少しだけ我慢しよう。
 胸に抱きしめたうさぎはぷるぷると震えていて、申し訳ない気持ちになる。
「ごめんなさい。でも私、今は逃げなくてはいけないの。見つかったら結婚させられてしまうから」
 そう言うと、うさぎはビクッとして「キュ」とか細く鳴いた気がした。
 同情してくれたのだろうか。
 都合のいい解釈かもしれないが、ヘレナはなんとなくそう思い、ポツポツと先ほどの出来事を話し始めた。
「お父様がね……今日、突然私に縁談があるって言い出したの。この婚約は、もう決定事項だって……そんなのひどいわ。私には、好きな人だっているのに……」
 そう言うと、うさぎはさらに「キュ」と鳴いてピンと耳を立てた。そして、ヘレナの腕の中で激しくもがく。
「きゃっ、うさぎさ──あっ! ま、待って!」
 あまりの抵抗にヘレナの腕の拘束が緩んだところ、うさぎは勢いよくぴょんっと飛び出してどこかへ行ってしまった。先ほどへレナに捕まったのが嘘みたいに素早い動きだ。
 直後、「ヘレナ!」と聞き覚えのある声が響く。
 うさぎを追いかけようと外へ出たヘレナは、怒気を含んだその声に、おそるおそる振り返った。
 ギギギ、と音がしそうなほどぎこちなく首を回した視線の先からは、長身の男が目を吊り上げ、大股で自分に近づいてくる。彼は騎士団の制服を着ていて、ヘレナと同じ黒髪黒目だ。
「お……お兄様……」
 妹にそう呼ばれ、ニコリと笑みを浮かべた彼──クルトの目はまったく笑っていなかった。

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