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銀狼王に守られた魔女は愛欲に揺蕩う

  • 作家皐月もも
  • イラスト霧夢ラテ
  • 販売日2019/8/27
  • 販売価格400円

アナスタシアは強力な魔力を有する家系に生まれたが、人の心を知ることができる能力ゆえ、無意識にその力を封じてしまった。結果、無能と判断した両親に忌まれ、八歳の時に森に捨てられてしまう。やせ細り、心を閉じてしまったアナスタシアを助けたのは、この森を守っている妖精王のサイラスであった。「私の番となってこの森で静かに暮らすか」この日からアナスタシアはサイラスの番となった。十年を経た今、身も心も彼に捧げ、深く愛し、結ばれる日々。だが、次第に愛の行為は魔力のバランスを取るためでは?と迷い始めるアナスタシア。そんな彼女にサイラスは自分にとって「番」がどんな存在なのかを説くのだが……

プロローグ
「この役立たずが」
 それが、アナスタシアが父親からかけられた最後の言葉だった。
 彼女の両親は優秀な魔法使いで、戦争中のセウブクール王国で重用され活躍している。彼らはもちろん、人々は二人の子供であるアナスタシアの能力にも大きな期待を寄せていた。
 ところが、生まれた頃に感じられた魔力は成長と共に弱くなり、物心つく頃には到底魔法が使えるとは思えないほどになってしまった。
 魔法学校へ通わせても、一向に魔力が回復する気配はない。
 将来有望どころか、炎や水を操る簡単な魔法さえも使えない落ちこぼれ──アナスタシアの両親が彼女に抱いていた期待は、次第に怒りや憎しみ、失望へと変わっていった。
 そして……
「お前はフィレンコフ家の恥だ。国のために戦うことすらできない人間などいらぬ」
 ある日、父親に連れ出されたアナスタシアは、国境にある深い森の中で馬車を降ろされた。
 うっすらと雪の積もった地面についたのは素足。冷たく吹き付ける冬の風を遮ってくれるものはなく、しかし、アナスタシアは不思議と寒さを感じなかった。
 あらゆる感覚が麻痺していて、身体も心も疲れ切っている。そんな状態だった。
 フィレンコフ家にも、魔法学校にも、彼女の居場所はない。魔法を使えぬ役立たずとして蔑まれ、価値のない者として扱われていたから。
 アナスタシアはすべてを理解していた。
 両親がもうずいぶん前から自分を娘だと認めていないこと。いつ家から追い出そうかと考えていたこと。
 今日この日に、森の中に置き去りにされることも。
『役立たず』
 父の心に嘘はなかった。
 アナスタシアは言い返すことも泣くこともせず、自分を置いて遠ざかっていく馬車を見つめる。
 父親の口から出た言葉が彼の心の声と同じだったことは初めてかもしれない。
 否、アナスタシアは両親が最後に自分に話しかけた日を覚えていない。それくらい、彼女の存在は無視されていた。
 彼らにとって最も重要なことは、築き上げた地位と富を守ること。だから、それに貢献できないアナスタシアには価値がなかった。
 大陸の領土を広げるため、常に周辺諸国と戦争中のセウブクール王国では、戦闘能力だけが価値のあるもの。当然、強い者は優遇され、弱い者は蔑まれる。
 特にフィレンコフ家のような優秀な一家は重宝された。それと同時に、周囲から妬まれ、その地位を狙われる立場にもある。
 信じられる人間はいない。功績を挙げることに躍起になり、両親の心はいつも荒んでいた。
 優秀な人物が現れることへの危機感、人を殺めることへの執着、出来損ないの娘への憎しみ……そんなどす黒い感情の渦に、アナスタシアは閉じ込められる。
 外へ出れば、落ちこぼれの自分に対する嘲りや哀れみ、優秀なフィレンコフ家の汚点を喜ぶ歪んだ感情にも晒された。
 聞きたくもない彼らの心の声は勝手に頭の中に入り込む。
 他人のことなど知りたくはない。だから、無意識のうちに殻を作り上げた。そうして、アナスタシアの魔力は身体の奥底へ沈められたのだ。
「そなた、捨てられたのか」
「──っ!?」
 静かな森に突然響いた声。アナスタシアはひどく驚き、肩を跳ねさせた。
 自分が“驚いた”ことにも、彼女は動揺を隠せない。まったく気配に気がつかなかった──いや、声が聞こえなかったのだ。
 しかし、振り返ってみてその理由に気づく。
「ほう……そなた……」
 流暢に人間の言葉を喋っているが、その姿は獣──狼だったからだ。
 ちらつく雪に染まったかのような真っ白な毛皮、すらりとした体躯……鋭い目は金色に輝いて、興味深そうにアナスタシアを観察している。
 彼はしなやかに四肢を動かし、アナスタシアに近づいてくる。

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