夢中文庫

とんでもない男に恋してしまったようです!

  • 作家橘柚葉
  • イラスト千影透子
  • 販売日2018/12/21
  • 販売価格600円

「恋に生きる!」がモットーの鹿島フジコ。ただ自分だけを見て、愛してくれる人を求めて合コンや婚活に力を注いでいた。ある日、厄介なお客様と評判のおトメさんが引ったくりに遭いかけたところを偶然助けたフジコ。その時、ひったくり犯を一緒に取り押さえてくれた男性、基貴の男らしい所作に胸を高鳴らせるのだが、彼はおトメさんの孫だった。後日、お礼の食事に招待された席でおトメさんに辛辣なことを言われても黙っている基貴にフジコは失望する。もう一度、基貴の男らしい姿を見たい──その思いからフジコは彼を試すようなことをつい口にしてしまうのだが、草食系だとあなどっていた基貴が豹変……!?強引で優しい彼に振り回されて──


「フジコ、久しぶりだね」
「珠美(たまみ)もね。元気にしていた?」
「うん」
 ここは、私が勤めている信用金庫から近いカフェ。
 アジアンカフェを謳っているこのお店は、周りにあるオフィスで勤めている会社員たちでいっぱいだ。
 仕事が休憩に入ってから来ていたのでは、遅すぎるほど繁盛しているカフェである。
 お手頃な価格、それに目新しい料理。なによりその料理はどれも美味しいとなれば、誰だって行きたくなるというものだ。
 だけど、私が勤めている信用金庫ではローテーションで昼休憩を取っているため、なかなかこのお店に来ることはできない。
 早めに昼休憩に入れたとしても十二時過ぎに信用金庫を出ることになるので、どうしても出遅れてしまう。
 と、いう訳で。
 元同期であり、結婚と同時にこの近くにある澤田(さわだ)税理士事務所に嫁いだ珠美にお願いをし、早めに店へ来てもらって席を確保してもらっていたのだ。
 私の予想通り。この店に着いたときには、すでに外で待っているお客さんもいたほど。助かった。
 注文もお願いしておいたので、スムーズにランチを食べることができる。
 元同期である珠美と会うのは久しぶりだ。それもこれも、彼女の旦那が片時も離そうとしないからだ。
 独占欲が強いというか、なんというか……私とは馬が合わない彼だが、珠美を幸せにしてくれているので許してやろう。
 そんな一癖も二癖もある旦那を説き伏せ、珠美はなんとか今日私と会う時間をもぎ取ってきたのだ。
 しかし、片時も珠美を離したくないと思っているあの男が、すんなり承諾したとは思えない。
「珠美。今日、私と会うために旦那と何か交換条件を交わしたでしょ?」
「な、なんで。そのことを……!」
 珠美は驚愕しているが、こちらとしては簡単に想像ができるってものだ。
 珠美を溺愛している彼女の旦那は、なんと言っても曲者だからである。
 きっと珠美を可愛がる提案をしたに違いない。
 真っ赤になって狼狽えている珠美を見て、私は心底嬉しくなる。
「幸せそうでなによりよ、珠美」
「うん……ありがとう。フジコがあのとき背中を押してくれたからだよ」
 そう言ってほほ笑む珠美は、数年前とは違い、目を見張るほど変わったし、キレイになった。
 とても素敵な女性になった彼女からは、幸せオーラがダダ漏れだ。それだけ旦那に可愛がってもらっているということだろう。
 彼女の恋を応援していた私としては、幸せになってくれてホッと胸を撫で下ろしている。
 だけど、こうも幸せオーラをみせつけられてしまうと自分の現状に空しくなってしまう。
「あーあ、私も珠美みたいに幸せになりたいな」
 頬杖をついて、目の前の珠美を見てため息をつく。
 顔を真っ赤にして慌てる珠美を見て、ますますため息が深くなる。
 私、鹿島(かしま)フジコ、二十九歳。独身。
 短大卒業後、地域密着型の春ヶ山(はるがやま)信用金庫に就職。入庫時は『さっさといい男捕まえて寿退社してやる!』と意気込んでいたのだが、気がつけばいつのまにかお局さまだ。
 それでも私は何も諦めてなんかいない。
 恋に生きる! をモットーに、合コンや婚活パーティーに繰り出す日々である。
 容姿は悪くはないと思う。どちらかというと派手な見た目だ。
 そのおかげで、男性から声をかけられることは多い。
 しかし、残念ながら私の理想の男性とは巡り会えていない。
 ただ、私だけを見て、愛してくれる人。それが絶対条件である。
 一生に一度の恋を求める私としては、自分の外見には気をつけたいところ。誰かが私を見初めてくれるかもしれないからだ。
 だけど、仕事柄あまり派手な装いはできない。
 ということで、あまり濃いめのメイクは控えているし、髪色だって少しだけ抑えめにしたこげ茶だ。
 仕事中は邪魔になるので腰まである長い髪はバナナクリップでひとくくりに纏めてある。
 身長は百六十センチ、バストはFカップ。
 唇はぽってりと厚く、色気たっぷりな顔……をしているらしい。
 とにかく素敵な男性と添い遂げることを目標にしているので、周りからは『肉食系女子』なんて言われている。
 でも、そこに辿り着くまでには涙なくしては語れない初恋話が……。

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