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お仕えするのは天敵副社長~完全降伏などお断り!~

  • 作家藤崎りく
  • イラスト夢志乃
  • 販売日2018/09/11
  • 販売価格600円

「お前は今日から俺の秘書だ。存分に骨身を削って尽くしてもらうぞ」──失恋、失業と続けざまに不幸が押し寄せ、人生のどん底を味わっていた百瀬郁。友人の紹介で好条件の再就職先も決まったのだが、そこには学生時代からの天敵・片桐冬真が待ち構えていた。副社長となった彼の秘書が郁の仕事。終わった……私の人生終わった……そんな絶望すら感じた郁だったが、彼に秘書として接するうちに少しずつ印象が変わっていく。天敵だけど冬真を嫌いになり切れない。ある日、学生時代の仲間を集めて再就職祝いが催され、つい飲み過ぎてしまった郁。彼女を家に送り届けてくれた冬真から思いもよらない宣言をされ、天敵関係が甘く変化していく──

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★一話
「桜庭(さくらば)!」
 怒気を帯びた声。
 顔をあげると、総合商事(そうごうしようじ)総務部の若き部長、二ノ宮康介(にのみやこうすけ)と目が合った。
 クールに整った目立つ美貌が、怒りに凄味を帯びている。
 桜庭真央(まお)は一瞬で嵐の気配を察知した。
「は、は、はい! なんでしょう。部長!」
 弾かれたように立ちあがり、真央は窓際のデスクへと駆け寄った。
「おととい、緑町物産(みどりまちぶつさん)に手形を送ったのはお前か?」
 長めの前髪からのぞく切れ長の目が、まっすぐ真央を見据えている。
「そうですけど……」
 二ノ宮の眉がくい、と吊り上がった。
(うう……こ、怖い……!)
 彼が総務に来てからの二年間、何度となく見せられた表情である。
 まだ決定的なことは言われていないのに、胃のあたりが早くもキリキリ痛みはじめている。
「……何か間違いでもあったんでしょうか?」
「大ありだ。手形の金額が一桁違うと緑町から連絡があった」
「一桁って……」
「三百万が三千万」
「ええっ!」
 ざーっと、顔から血の気が引く音が聞こえた気がした。
「申し訳ありません!!」
 泣きそうになりながら頭をさげると、二ノ宮は苦虫を噛(か)み潰したような顔で立ちあがった。
「不幸中の幸いで担当事務員が大学の同期だった。多分なんとかなるだろう……ったく、換金されてたら大事だったぞ」
 二ノ宮は背もたれにかけていたジャケットをつかんだ。
「今から緑町に行く。お前も来い。十分後に玄関前集合だ」
 二ノ宮はボードのネームプレートを二人分裏がえすと、肩をいからせフロアを出て行った。
「先輩、何かありましたぁ? 王子、すごく怒ってましたねー」
 パソコンの電源を落としていると、隣席の田中康子(たなかやすこ)が、いそいそと話しかけてきた。
 一年後輩の彼女は、真央と違って明るく要領がいい。
 かろうじて敬語を使ってくれているものの、先輩としての威厳なんて、とっくの昔になくなっているのは表情の端々からはっきりわかる。
「手形の金額をね、一桁間違えて送ってたの」
「それ、大変じゃないですかぁ。でも、先輩なら、やりそうです」
 人事みたいに笑う康子に、真央はおずおずと言い返す。
「でもさ、あれ、康子ちゃんが……」
「ん? 私がどうかしましたぁ? 先輩?」
 康子の笑顔がふいに消えて、意地悪そうに唇が歪む。
「ううん、何でもないよ」
 真央は言葉を飲み込んだ。

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