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フラスコの庭~灼狼は無垢な賢者に身を捧げる~

  • 作家鳥下ビニール
  • イラスト逆月酒乱
  • 販売日2019/8/20
  • 販売価格600円

奇病に襲われた里を救うため、命がけで賢者の住む庭に救いを求めて来た獣人・ハース。だが目当ての《果ての賢者》は既にこの世を去っていた。代わりに賢者が造りあげた弟子のツムギと出逢い、ハースの里の住人たちは彼女が作り出す治療薬で救われていく。これは一生かかってでも返すべき大恩、なにか礼をしたいとハースが申し出る。するとツムギが求めたものは──「私の暇つぶしになってほしい」 退屈を忘れたいと言うのならそれを叶えるべく、全力でツムギが望むことすべてを叶える覚悟のハース。彼女の無邪気な好奇心は破廉恥な要求となり、それに応え恩に報いていくのだが……

夜に踊れ子
 この世界の果てには、賢者の住む庭がある。
 小国レヌから飛竜で数日の距離にある、魔の霧に包まれた場所。
 黒曜石のように輝く髪を持った、美しい女の錬金術師だ。
 この世の全ての知識を持ち、無尽蔵の魔力を持っている。
 親切で万能な賢者は、どんな望みでも叶えてくれる。
 魔の霧を超え、命を賭けてたどり着いたなら。
 白い髪の助手と二人、小さな庭の中で来客を待っている。
 この世界の人々が、みんな知っているおとぎ話。
◇ ◇ ◇
「お師匠は、もう死にました」
 そう伝えると、目の前の獣人は途方にくれた顔をした。
 随分遠くから来たのだろう、身にまとった冒険者の服は、限界までくたびれている。
 元の色がわからないほど煤けて、泥にまみれ、あらゆる箇所がほつれて。
 そしてその上から、汚れ果てたマントを羽織っている。
 生き物と外の匂いが混じった獣臭、光をなくした目。
 どんな思いでここに来たのかを想像して、胸の奥が小さく痛む。
 ここに来る客は大抵必死だが、彼の悲壮感はとびきりだった。
 数年前に死んだお師匠は、外では《果ての賢者》と呼ばれていた。
 この世界の端っこの、魔霧に覆われた辺鄙な場所に居を構えていたからだ。
 結界の中は霧も晴れ日光も入る構造になっているが、ここにたどり着くまでが大変なのだ。
 魔力をふんだんに含んだ霧は、方向感覚を狂わすし。
 まっすぐに進めたとしても、馬鹿げた時間がかかる。
 あの濃霧は、そんな客人たちを無数に飲み込んでいる。
 そうまでしてやって来る客が絶えないのは、錬金術師の最高峰とまで呼ばれた《果ての賢者》にしか叶えられないことがあるからだ。
 それも、少々昔の話だが。
「長旅だったんでしょう、今お茶を入れます」
 お師匠の死を伝えたあと、無言になってしまった獣人の手を引いて家に入る。
 なんて事のない小さな民家だが、生活空間に人を入れるのは久しぶりだった。
 なにしろここ数十年、来客など存在しなかったのだ。
 久々に来客用のティーカップを用意して、ダイニングテーブルにぽつんと座る青年に差し出す。
 小さく揺れる水面を見ながら、青年は微動だにしない。
 自分用に入れたものを飲みつつ、こっそりと彼を観察した。
 どこから来たのかはわからないけれど、とことんまで汚れている。
 おそらくは赤毛であろう頭髪はドロドロボサボサの、枝毛だらけ。
 細々と混ざっているのは、砂と泥だろうか。
 その上から生える三角の耳は、力なくしなだれている。
 彼が身じろぐたび、乾いた汚れが床に落ちたりした。
 先ほどチラリと見えたふさふさの尻尾から察するに、イヌ科の獣人なのだろう。
「果ての賢者に、どんな用事があったんです?」
 明らかに気落ちしている彼に、聞くべきことではなかったかもしれない。
 それでも久々の来客だったのもあって、私は好奇心の方を優先した。
 お師匠がいなくなってから、この家の時間は止まってしまった。
 新しい何かを、いつだって求めてやまないのだ。
 青年は落ち窪んだオリーブグリーンの目を私に向けて、ぽつりぽつりと話し始める。
「……俺の里が、疫病に沈んだ。どこの医者も薬師も匙を投げて、気がつけば動けるのは俺とあと数人だけになっていた」
 なるほど、それで里を救うための一発逆転を狙ってお師匠を訪ねてきたのか。
 確かに彼女なら、ものの数日で彼の里を完璧に救ってしまえただろう。
 残念なことに、もうすでにこの世を去っているのだが。
「俺たちしかかからない、妙な病気だ。年寄りから死んでいる。子供が死ぬのも、そう遠くはないだろう」
 そう語りながら、青年の顔は苦しげに歪んでいく。
 ふと、カップに添えた彼の指先が妙に黒いのが気になった。
 私の視線に気づいた青年が、腕を隠していたマントをまくってみせる。
 鍛え上げられた太い腕の、中ごろまでがまだらに黒く染まっていた。
「体の末端から、こうして徐々に黒くなっていく。期間に個人差はあるが、全身がこうなれば死んでしまう」
 ──どこかで見た症状だ。
 そう、確かちょうど百年前。
 ここから飛竜で数日の距離にある、小国レヌで蔓延した病だ。

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