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一途な初恋の行方~伯爵さまは銀の少女が愛しくてたまらない~

  • 作家永久めぐる
  • イラスト鍋木
  • 販売日2019/10/1
  • 販売価格600円

船乗りの父と二人きりで暮らしていたクロエ。この国では珍しい白銀髪と紫の瞳をもつ彼女は、同じ色彩を持つ最愛の父を事故で亡くしてしまう。「帰ろう、クロエ」独りぼっちになったクロエに声を掛けたのは、父の雇い主である伯爵家の嫡子ケネスだった。――それから数年後。十八歳になったクロエは、伯爵家で慎ましやかに暮らしていた。いつからかケネスに淡い恋心を抱いていたが、身分違いで叶うはずがないと、クロエは職を探し伯爵家を出ることを決意する。一方ケネスもクロエを好いており、今更どう気持ちを伝えればいいのか……と悩んでいたそんな時、クロエが職探しをしていると聞いて……!? 初恋同士、二人の恋の行方は――?

序章 涙雨
 朝から降り始めた雨が、音もなく新緑を濡らしていた。
 丘の上の墓地は、まるで時が止まったかのように、静寂に包まれている。
 晴れた日であれば輝くように白い墓碑は灰色に沈み、丘から見下ろす海も紺碧ではなく鈍色に濁り、崖にぶつかって割れる波頭は荒々しい。
 その墓地の一角。
 真新しい墓の前に人影がぽつりと佇んでいた。石像のように微動だにしないその影は、少女の形をしている。
 彼女の喪服はすっかり雨に濡れ、重たげに垂れたスカートの裾からは雫がぽたり、ぽたりと滴っている。
 月光を集めたような白銀の髪からも、白皙(はくせき)のおとがいからも、同じように雫が落ちる。
 菫の花や夕焼け空を思わせる紫の目には、悲しみと空虚さをたたえている。眦(まなじり)から止めどもなく流れ落ちる涙は、冷えた頬を一瞬だけ温めるが、即座に雨と混じって滴り落ちる。
 歳の頃は十二、三。儚げな姿は、今にも雨にかき消されてしまいそうだ。
 そんな彼女の背後へ、長身の青年がそっと近寄った。彼は手にしていた傘を広げ、少女に差しかける。
「──クロエ。風邪を引いてしまうよ。もう戻ろう」
 労りに満ちた彼の声に、彼女はようやく身体を動かした。
 緩慢な動作で振り返り、茫洋とした目差しで青年を見上げる。
「どこへ帰れば、いいのでしょうか……」
 クロエと呼ばれた少女は、うわごとのように呟いた。打ちひしがれた者独特の、生気も力も何もかもを失った声色だった。
「ひとりぼっちに、なって……しまいました……」
 抑揚のない声は、大きすぎる悲しみを受け止めきれず、感情が麻痺してしまったから。
 彼女に向かって傘を差しかける青年は、痛ましそうに眉をひそめた。
「君はひとりじゃない」
「ケネス様……」
 彼の言葉はクロエにとって気休めにしか聞こえなかった。ゆるゆると首を横に振る。
 幼い頃に母が他界して以来、クロエは父親とたったふたりきりで寄り添うように暮らしてきた。その父が、不慮の事故で呆気なく逝ってしまったのだ。そのうえ、頼れるような親戚もいなかった。
 たった一人で世間に放り出された不安と、大好きな父を亡くした悲しみから、クロエは顔を上げることはもとより、何かを考えることすらできないでいた。
 青年は上半身を屈めて、クロエに目線を合わせた。紫の目を真っ直ぐに見つめて、口を開く。
「僕の家へおいで、クロエ」
 少女は驚いたように目を大きく見開いたが、僅かな時間のあと目を伏せた。銀のまつげが、けぶるように虹彩を隠す。
「ケネス様や、旦那様にこれ以上ご迷惑をおかけするわけにはまいりません」
「迷惑? そんな心配はしなくていい。ジャン船長──君のお父さんから、『自分に何かあったら娘を頼む』と頼まれている。それにね、君も知っての通り、僕にとってジャン船長は憧れの船乗りだ。彼の頼みを、無碍(むげ)にするわけないだろう? 僕がしたくてするんだから、君はなんの気兼ねも心配もしなくていいんだよ。全て僕に任せて?」
 ケネスは、クロエを安心させるように微笑を浮かべた。

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