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恋する花の顔~こじらせ美女はイジワル同期の手中に落とされる~

  • 作家兎山もなか
  • イラストSHABON
  • 販売日2019/8/30
  • 販売価格300円

自他ともに認める美人OLの千鶴。『高嶺の花』らしく、不器用さを隠し孤高に生きてきた。本当は片想い中で同期の司馬ともっと親しくなりたい……けれど一年前、長く付き合った恋人にふられた傷から素直に動けずにいた。「高嶺の花でいるのは、楽だよな」あるとき、千鶴は司馬から見透かされるように言われる。深夜のオフィス、ふたりきり。「試しに抱かれてみて」意地悪な微笑で強引に誘う司馬に『高嶺の花』は蕩けるほど甘やかされ、かき乱され──※本作品は、過去に配信していた同タイトルの作品を加筆修正したものです。過去に同タイトルの作品を購入頂いたお客様でも、閲覧には再度購入が必要となりますのでご注意下さい。

プロローグ.あなたの顔が好き
「好きだよ」
 そんな嘘みたいなこと、ありえる?
 耳もとでささやかれる声に頬が熱くなるのを感じながら、そればかり考えていた。話ができすぎていて怖い。
 彼が、私を好きになる。それは奇跡みたいにありえないことだと思っていた。社内で人気者の同期が、私に振り向くわけがない、と。
「千鶴(ちづる)」
 昔からそうしていたかのように、自然に私の名前を呼ぶ声。ベッドの上で、まだ服に手をかけられる前の状態。頬に触れた手の温度の心地よさに、夢か現実かもわからなくなってしまいそうで。──なんでこうなった?
 私の彼に対する振るまいの数々は、これまで彼を遠ざけてきたはずだった。それなのに。
「好きだ。すごく好き。……お前の顔はな」
 繰り返される告白のなか、強調される“顔は”という言葉に、伏せていた目でそっと司馬(しば)くんを見上げる。彼は意地の悪い顔をしていた。切れ長の目もとにすっとした鼻筋。見つめるうちに吸い込まれてしまいそうなほど深い色をした瞳。
 見慣れているはずなのに、それでもこれだけ間近にあると別モノのように思えて、心臓が異常な速度で早鐘を打つ。それを必死で抑えつけながら……。
「私も」
 彼の首に腕を回す。好きと言われた顔で、綺麗に微笑んでみせる。そして恐らくは、その顔に似合うであろうセリフを吐いた。
「──私も、司馬くんの“顔は”好きですよ」
「……俺の顔?」
「はい。あなたの、人を気持ちよくするのが上手な顔」
「トゲだらけだな」
 彼はおもしろそうに笑って、私のブラウスをまくりあげた。
「あッ……ん……」
 ──売り言葉に買い言葉で成立してしまった、この奇跡のようなシチュエーション。
 皮肉なことに、きっかけはまたしても私の“顔”だった。
1.高嶺の花は一度散っている
“高嶺の花”というのは役職みたいなもので。“あの子は綺麗ね、美人だね”と言われて、いい気になっていたことが私にもありました。ええ、ありましたとも。認めましょう。宇佐美(うさみ)千鶴には完全に舞い上がっていた時期がありました。
 陰で男性たちが自分の噂(うわさ)をしているのを、“興味ありません”なんて顔をしながら心の中では鼻高々。“この顔に生まれてきてよかった!”と両親に感謝しました。これまでの人生、小さい頃からなにかと優遇されてきたという自覚もあります。だからちょっとくらい躓(つまず)いたことを嘆いてみたって共感もされないし“甘ったれんな!”と言われることも承知しています。ええ。でも。でもね。
 その役職を活かしきれるかどうかは、その人の“中身”次第なので。
「別れよう、千鶴」
 美しい容姿に中身が伴わなかった場合、こんなふうに振られてしまうことがあるようです。それも大学時代から五年間付き合った上で、急に突き落とされるなんてまあまあな災難具合で。
「お前といても楽しくない。千鶴、あんましゃべんないし。つまんねぇーよ」
 言いたいことならたくさんあります。
 私といても楽しくない、と、この男はそう仰る。
 むしろあなたは一緒にいて楽しくないことに五年間も気づかなかったんですか? 私もとからおしゃべりな方ではありませんでしたけど、今更それを言いますか? 遅すぎやしませんか。無駄に時間を過ごしたとは思いませんか。もったいない!
 恨みごとのようなセリフを吐く最後はあまりに格好悪いと思うから、なけなしの理性で本音は喉(のど)もとで塞(せ)き止められている。
 ──私は。つまんなくなかったんですけど。
「……あなたは」
「ん?」
「私のこと好きだった?」
 彼は少し上の方を見たり、私の顔を見たりしながら思案していました。大学生の頃好きになったのは、今も変わらない、真面目で何事にも慎重そうな目つきと嘘がつけない性格。
 彼は考えた末に、答えを口にした。
「お前の顔は、好きだったよ」
「……そう。わかった。今までありがとう」

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