
イラスト緋月アイナ
ふだんと違う私を疑わないで。この指は私を触っている……?
もうすぐオサムと結婚する絵里。仕事や身の回りの整理も順調に済ませ、式まであと数日という時に受け入れがたい悲劇が彼女を襲う。
皮膚の奥まで沁みてくるような愛を感じることも、そのぬくもりが本当に自分のためだったのか尋ねることも、もうできない。
淋しさを抱えレコード店の店長となった彼女に、不愛想で「顔だけはいい」佐鳥は冷たい。
なぜこんなにも絵里に厳しい態度をとるのか、絵里がずっと感じていた淋しさの理由と繋がっていて――
佐鳥の本当の気持ちを聞かされた時、絵里は佐鳥に、佐鳥もまた絵里に抑えきれない愛しさを感じる。
共鳴する愛が向かう先には……?
プロローグ
唇が、背中を這う。
シーツを握りしめ、私はじっとその感触に集中している。
少し乾きぎみの、薄くて柔らかなあわいから舌がのぞく。肩甲骨と、その下のくぼみを、ゆっくりとなぞってくる。
「ンッ……」
オサムにこうされていると、自分がチョコレートかクッキーになった気がする。ぬくもりが皮膚に沁み込んで、舌の形に溶かされていくみたい。
唇は脇腹にもおりてくる。腰のラインをゆっくりとついばみながら、くびれた箇所を淡く齧(かじ)る。
「あ、あン……」
腰がヒクンと跳ねる。お尻が厚みのある胸板を擦った。
舌先が、今度は脇腹から背筋に近づいてくる。すっと正中線を舐めあげる。
「あぁ……」
切ないくらいの快感に、私は短い泣き声を漏らす。黙っている彼に聞いてほしくて。この感覚を伝えたくて──
もう一度、背筋を舐める舌。そうしながら手が、太腿の中心に忍び込んでくる。
とっさに閉じようとする脚を、オサムは安心させるように撫でてくれる。そうして内腿のはざまから、秘所に指先を挿し込んでくる。
親指と薬指が、秘唇の脇に添えられた。そのまま左右に開いていく。
ひし形を象(かたど)る私の裂け目。中指が、触れるか触れないかの動きで、秘唇やその脇に微細な刺激を寄こしてくる。
ふわり──
片側の秘丘で、繊毛がくすぐられた。
ジンッ──と、甘い痺れが、皮膚の内側まで伝わってくる。
静電気を帯びるような指の腹が、徐々に中心に近づいてくる。
秘唇が、なぞられた。
「く……っ」
それだけで下半身が、弾かれるように痙攣した。
敏感な皮膚の、ごく表面を撫でながら、指先は秘唇に入ってくる。
ぬるりと、なめらかな感覚が粘膜をすべった。
指はさらに真ん中に迫り、濡れていることを教えるように、優しく擦りあげてくる。
「あぁぁ……!」
私は目の前のカーテンをつかんだ。
オサムはベッドに膝をつき直し、覆い被さるように腰を近づけてくる。秘部に触れる三本の指に、力が籠る。
中指が、ぬめりの中心を圧迫する。
そのまま粘膜の裂け目に沈み込んでくる。
ずっしりと重みのある快美が、愛しい人の指から注がれてくる。
「あぁ、オサ、ム……!」
背後のオサムにしがみつくように、私はカーテンを握りしめた。ドレープの引き攣った布地が小さく開き、隙き間から夜の冷気が忍び込んだ。
外は霧雨。細かな雨粒がガラス窓にまぶされ、水滴が木枝のような筋を描いて流している。
肩ごしにオサムが腕を伸ばし、カーテンを閉じようとした。
「外から見える」
ベッドに入ってから、初めて聞いた彼の声。
私はカーテンをつかんだまま、筋肉の浮いた二の腕に頬ずりするように首を振った。
信州の湖畔のロッジ。窓の外はポプラの木立が湖まで続いている。こんな夜遅くにアスファルトの道を逸れて、暗い森に入ってくる人はいない。
「雨がきれい……ずっと見ていたい」
細い夜の隙き間に映る、オレンジ色の光。これから人生をともに歩むふたりが、雨雫をまとって浮かんでいる。
「せっかくの初めての旅行なのに、雨で悪かったな。これからも、どれだけ来れるかわからないのに」
オサムが窓から顔を伏せ、私の背中にふたたび唇をつけた。
ご意見・ご感想
編集部
あなたが誰を想っているのか気になるのは、あなたのことが好きだから――
それを確かめられなかったのは、私が弱いから――
絵里は全てを語ってはいません。
心に秘めて、疑いにそっと蓋をして、
愛が深いから、これから幸せになれるって期待しているから、
「信じる」強さを自分の心で育てようとしているようにも見えます。
おとなしい女性のようで、そうじゃない一面も。
きっとホントは明るくてひょうきんな筈!
思わずクスッとしてしまう彼女の可愛らしさが読む者を優しく救ってくれます。
でも……
切ない気持ちも極上の喜びも……あの日に奪われてしまって。
彼女の身体に残るあの人の体温はいつまでも消えてくれなくて、消したくなくて。
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そんな時に出会った佐鳥。
優しくない、気が利かない男です!?(いや、そんなことはない筈だ!!)
冷たくされればそりゃ絵里だって反発しますよね……
……が、「苦手」と感じる佐鳥の秘密を知った日から。
背徳を共有しているような、もっと純粋な気持ちを彼に感じるような。
愛の行為が二人の心を結びつける瞬間、
世界が開けたように柔らかな気持ちに包まれます。
触れれば壊れそうなのに、傷つけられても倒れない。
もしかしたら倒れた……のかもしれないけれど、
一人で起き上がらなければならないわけじゃない。
静かに燃えるような心と身体、その全てをぜひ!
その目で、心で体感して下さい(。+・`ω・´)ゼヒ
2017年4月21日 8:39 AM