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男爵令嬢は婚活よりもふもふをご所望です

  • 作家山本風碧
  • イラストKrage
  • 販売日2019/9/11
  • 販売価格600円

王都では、人の言葉を話すことができる『有言種』というペットが、貴族の間で人気を集めている。有言種は魔術によって生みだされるが、多大な量のマナと特殊な教育が必要なため、希少価値がかなり高い。――そんなトレンドを知らない田舎の男爵令嬢アメリは、婚約者探しのため王都にやってきた。動物が大好きな彼女は田舎では両親に隠れて獣医の見習いをしていたが、王都には気軽に触れ合える動物がいない。毎日の婚活に疲れ、もふもふ不足に耐え切れなくなったアメリは、下町の古ぼけた動物病院にたどり着く。そこで獣医の手伝いを始めたアメリは、怪我をした有言種の猫を保護することになるが、『彼』はなんだか訳ありのようで……?

第一章 アメリ

「じっとして。いい? わたし、あなたを助けたいだけなの」
 アメリは一匹の馬に向かって真剣なまなざしを向ける。
 赤金色の髪は太陽を、青い瞳は晴れた日の青空を思わせる彼女が静かに語りかけると、それまで暴れていた馬が急に大人しくなった。擦り寄るように鼻先を近づけると、アメリの頬をペロリと舐めた。
「そう。いい子ね!」
 アメリは破顔してそっとたてがみを撫でた。滑らかな感触は絹のよう。うっとりしながら、後ろに控えていた老人に目配せをした。彼の名はバーナード。獣医師だ。バーナードはホッとしたように肩の力を抜いた。
「アメリちゃん、助かるよ」
 そして大人しくしているうちにと、馬の傷を慎重に診はじめる。
「治療、見ていてもいいですか?」
「もちろん。……うん、軽症だ。二、三日で治るだろう。うん、これだと薬は……」
「シャーフガルべとガマ油の軟膏でいいですよね?」
 すかさずカバンの中から傷薬を取り出す。これはこの間アメリが調合したばかりのものだ。
「さすがだね」と嬉しそうに頷くバーナードを見て、正解だとわかる。
「折れていなくて良かったね」
 アメリはホッと胸をなでおろす。大型の動物の骨折は、そのまま死に繋がる。重すぎて内臓がすぐに壊死してしまうのだ。
「折れていたら、楽にしてやらなければいけないからねえ。さあ。次はご依頼のロイドさんところの猟犬だね」
「うん。バークね」
 傷を洗い流し、アメリの渡した薬草を塗るとバーナードは立ち上がった。アメリはちょこちょこと彼についていく。アメリは動物全般が好きだが、毛の長い犬や猫は特に好きだった。あのふわふわの滑らかな毛の感触を味わうのは至福の時だし、なにより腕の中に抱きしめられるのがたまらない。
 今朝、日課の散歩ついでに撫でさせてもらっていた時に、様子のおかしさを感じてバーナードを呼びに来た。ちょうど診察中だったバーナードが、気が立った馬に苦戦していたので手伝っていたというわけだった。
「バークは、さっき見たときは、咳たくさんしてて。喉に何か刺さってるみたいよ? もしかしたら釘とか飲み込んでるかも」
 バーナードは深刻な顔をする。
「アメリちゃんが言うんならそうだろうね。ひどくなければいいけれど。……本当に、精霊に愛されているんだねえ。昔はたくさんいたみたいだけど、マナが枯渇しかけている今は本当に珍しくなったから」
 獣医から見ると本当にうらやましいことだ、とバーナードはため息をつく。
「でもこの頃抜け出し過ぎじゃないかね? お父上に見つかったら怒られるんじゃ……」
「平気よ。朝早いし、みんなまだ寝ているわ。それに、この格好していたら、気づくわけないもの」
 家族は夜更かしが好きだから、朝寝坊なのだ。父も母もまだベッドの中に決まっている。
 それに、とアメリは胸を張る。綿のシャツとスカートに、革のボディス。目立ちがちな金の髪はひっつめて古ぼけた帽子に突っ込んでいる。完全なる村娘の格好だ。ちなみにこれはアメリの侍女、セリーナの私物を買い取ったものだ。
「アメリ先生! おはようございますー! あ、ほっぺに泥が着いてる! おっかしー!」
 すれ違った子供が笑い、そばに立っていた男もげらげら笑った。
「べっぴんさんが台無しだな!」
 アメリは頬の《化粧》を指差し、バーナードを見て、ほらね? と言う。
「今まで誰も気づいてないし」
「いつまでも、そううまくいくかねえ……」

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