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見習い魔女と秘薬のレシピ~初めてのお仕事は訳あり王女の淑女教育でした。~

  • 作家山本風碧
  • イラスト
  • 販売日2020/05/15
  • 販売価格800円

『王子が生まれると、魔女に連れ去られる』北の森にある村の人々は、古くから魔女と恐れられ、このおとぎ話を信じる王家とは不仲である。村最年少の見習い魔女ティナは、ある日、村に届いた緊急の要請により、因縁の王宮へ派遣されることに。自分を一人前と認めさせるべく向かった王宮で出会ったのは、中性的な美しさを持つ王女ヴィルヘルミナ。ティナに与えられた仕事は、秘薬づくりと王女をより〝女性らしく〟すること。だが、ヴィルもおとぎ話を信じているようで、ティナに対して攻撃的だった。それでもティナはへこたれず、二人は次第に心を通わせ始める。ところが、この仕事の裏には何百年という時を重ねた深い事情が隠されていて……?

一 王女ヴィルヘルミナ

 その昔、〈大地の王ヴィルヘルム〉は北の森に住む〈水の魔女シュメルツェ〉と恋に落ちました。
 しかし、大地の王には既に妃がいて、王子までおりました。王は後ろ髪を引かれつつも、その土地を密かに去りました。
 水の魔女は嘆き悲しみ、王の息子をさらっただけでなく、王の元に王子が生まれる度にその子をいけにえとしてさらうようになりました。
 そうして、長い月日が流れる間に、いつしかこの国には王子が生まれなくなったのです。
 ──ヴィルヘルム王伝 第一節より抜粋──
 古い石畳の敷かれた回廊を少女が一人歩いていた。
 曲がりくねった回廊の突き当りには重厚な扉があり、少女の到着を待ち構えたかのように開け放たれる。
 柔らかい絨毯を踏み、少女は部屋の奥へと進む。そして目の前にいる漆黒のドレスに身を包んだ女性を見つめた。
「女王陛下──お召しにより、参上いたしました」
「待っていました。ヴィルヘルミナ。今日は、母としてあなたに伝えたいことがあるのです」
 ヴィルヘルミナと呼ばれた少女は、その黒い瞳に強い光をたたえて、母親である女王を見つめた。彼女が母としてという時、ろくな知らせがないことをヴィルヘルミナは知っていた。
「何度もお願いしておりますが、わたくしのことはどうかヴィルとお呼びくださいませ」
「王女ともあろう者をそんな風に呼びはしません。ヴィルヘルミナという名はどうしても気に入らないのね」
「始祖であるヴィルヘルム王からいただいた名だとは存じております。けれども、私には不相応に思えます。自分が自分でないような、そんな気分になります」
 昔の名で呼んでいただきたいだけです──そんな本音を隠したままに、ヴィルは優等生の回答をする。女王の前では良い娘でいなければならない。昔、自らに課した決まりごとだった。
 優しい母を演じるようにして、女王はヴィルに柔らかく語りかけた。
「お前には苦労をかけてすまないと思っているの」
「いえ。父上も、母上も、ご苦労がお有りなのはよく分かっておりました」
 ヴィルの父であるエアランゲン公は、五年前、彼女が十一歳の時に亡くなった。そしてその時に彼女の重く険しい運命は定まってしまったと言って良い。
 ヴィルはそのことを母の前では決して口にしない。母の努力はよく知っていた。何度も見合いをして再婚を考えたことも、その度に心労でげっそりと痩せてしまったことも。しかし、いくら努力をしても母は父を忘れることだけはできなかったのだろう。問題は解決することなく、いつの間にかこんなにも時間が経ってしまった。
 ヴィルは女王の浮かべた完璧な作り笑いを見つめる。昔はもっと柔らかく笑う人だった。あの笑顔が完全に消えてしまったのは、ヴィルが髪を切った時だ。あれ以来、彼女は作ったような笑顔しか浮かべない。ヴィルが王女の仮面を被るのと同時に、母も冷酷な女王の仮面をずっと身に付けるようになってしまったのかもしれない。

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